たとえば「半身浴」と「やせる」あるいは「ダイエット」でネット検索を行うと、
「知ってた? ひと工夫すれば『半身浴』の効果はもっと高まる!」
「お風呂でやせよう! 半身浴ダイエットの効果を上げるやり方」
「間違ったやり方だと逆効果! 半身浴の効果と正しい方法」
など、興味をそそるサイトがいくつも引っかかります。さらに検索を続けると、「半身浴にダイエットできるほどの消費カロリーはない!」や「実はやせない!? 半身浴のダイエット効果を検証」といった半身浴に懐疑的なサイトも現れます。
はたして半身浴は痩身に役立つのか役立たないのか? 実はこれらのサイト、ほとんどがエビデンス(医学的な臨床結果などの科学的根拠)なしに書かれています。このテーマに限ったことではありませんが。
「半身浴でやせる」とする理屈は、体が芯から温まって血行がよくなり、たっぷりと汗をかくために新陳代謝が向上する。その結果、老廃物を排出することがダイエットにつながる、ということです。なぜ半身浴なのかというと、心臓に負担をかけずに長時間入浴できるから効果的に汗をかくことができ、リラックスやリフレッシュの効果も高いから、ということになっています。この説明で半身浴のメリットは生理学的にほぼ正しいのですが、問題は「だからやせる」のかどうか。
実はこの問題解決の参考になる研究がありました。北海道大学教授で日本銭湯文化協会理事の大塚吉則先生が、ある企業と提携して行った検証実験について、『新版 温泉療法』(クルーズ刊)という本に書かれているのでご紹介しましょう。
被験者は「女性誌の中心的読者と思われる平均年齢30歳の女性20人」で、「1回30分の半身浴を週3回4週間継続してもらいました」。お湯の温度は40℃前後でした。一般的に38~40℃のお湯に20~30分というのが半身浴の方法とされています。
「その結果、予想に反して基礎代謝量が約200kcal増加したのです。つまり黙って寝ているだけでも、体は1日あたり200kcal余計に消費するようになったのです」。この200kcalは大雑把に言って、「急ぎ足で1時間程度ウォーキングを行った際に消費するカロリーに相当する」のだそうです。
「そして基礎代謝が増加した結果、体重を測定していた9人のうち500g以上減量できた方が6人も出現しました。他には、500g以内の変化が2人で、逆に1.1kg増加した方も1人存在していました」
4週間の半身浴継続は、例外があるものの、大半の被験者のダイエットに役立ったのです。大塚教授にとって、この結果は「予想に反して」というものだったと書かれています。「これは驚きの結果でした。しかし、世の中そんなに都合のいい話ばかりではないと思い、半身浴の期間をさらに伸ばすことで、この減量効果は持続するのかどうかをさらに検討してみました。今度は8週間継続してもらったのです」。
教授の予想は的中しました。「すると、6週間後に基礎代謝量のピークがきました。そして8週後には、肝心の基礎代謝量がかえって低下してきました。8週で半身浴を止め、さらに4週後に基礎代謝量を測定してみるとさらに低下していったのです」―いわゆるリバウンドが起きたのです。
半身浴の信奉者にとってはいささか残念、かつ心配な結果ですが、実験を総括すると、
①半身浴ダイエットは確かに有効ではある。
②ただし、半身浴を継続すると、その基礎代謝を増加させる効果は頭打ちになる。
③一度増加した基礎代謝量はその値を維持するのではなく、徐々に下がり始める。
ということになります。医学的には、「温熱刺激に体が反応して、最初は基礎代謝を上げる方向に生体機能が反応していたのが、継続することで “馴れ”が生じ、刺激として感じなくなった」ことが原因と考えられる、という見解です。
この実験は被験者こそ少ないものの、ダイエット効果とリバウンド現象が医学的に説明できる内容であった点に大きな意味があるのではないでしょうか。欲を言えば、とりあえずやせる効果が現れることが分かった半身浴なのですから、それを維持する方法が何かないか、ということです。大塚教授は次のように述べています。
「半身浴をダイエットに有効活用するためには、
①4~6週間半身浴を継続して基礎代謝を上げる。
②その後、数週間はシャワーだけに留めること。
③シャワーだけの間、体重が増えないように注意し、再び半身浴を始める。
という、反復半身浴法がダイエットに効果的なのかもしれない、という可能性が出てきました」
「その後、数週間」はどのくらいか、「体重が増えないように注意」の具体策は何か、が知りたいところですが、新しい研究成果に期待したいですね。
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