湯船に体を沈めると、私たちは有名な3つの物理的な作用を受けます。温熱、静水圧、浮力です。温熱効果は、お風呂に入れば温まるので誰でも感じることができる作用ですが、静水圧と浮力はそれほど強く感じ取れるものではありません。今回は、浮力という物理的な作用をどのように利用すればいいのかをお話ししましょう。

理科の授業で習ったアルキメデスの原理、覚えていますか? 「液体に沈んだものは、そのものの体積と同じ液体の重さだけ軽くなる」という原理です。水の中にいると体が軽くなる経験は、プールなどであると思います。湯船いっぱいに張ったお湯に頭まで浸かると、お湯が溢れ出ます。この溢れ出たお湯の重さと、湯船につかっているあなたの体重は同じ重さになる。つまり物体が水中に入ると、入った物体の重さの分だけ水が押し出され、その押し出した水の重さに等しい力で浮きあがろうとします。これが浮力です。柚子やリンゴが湯船に浮かぶのも浮力によるものです。

この浮力、どれくらいかというと、たとえば体重が50キロの人なら水の中では5.17キロに、70キロの人でもわずか7.13キロになってしまいます。つまり体重が9分の1から10分の1になるのです。この浮力のおかげで体が軽くなるので、自分の体重にかかる重力から解放されます。すると、ふだん体重を支えている関節や筋肉への負担が軽減され、緊張がほぐれてリラックスします。腕や脚をフワーっと浮かせてみると、浮力がどのくらい効いているか分かるでしょう。無重力とまではいきませんが、重力をこれだけ感じないということは、通常の陸上の生活ではまずありません。

このように水の中では、体重の負担を受けることなく足や腰、腕などが楽に動かせるようになるわけです。体の疲れも心の疲れも軽くなることをイメージしながら入ると、さらに効果的でしょう。体重が10分の1に減るということは、理論的には陸上の10倍の運動が水中で可能ということになります。ふだん運動不足でない人も、これを利用しない手はありません。入浴剤の入ったお湯なら比重が大きくなるので、浮力はさらに増加して効果も増します。

浮力を利用すると、筋肉に対してはダンベル運動と同じぐらいのトレーニングになるともいわれます。これに温熱の効果が加わると、リウマチや神経痛の痛みを感じにくくなります。ですから、湯船の中で手足を動かせばこわばった筋肉がほぐれやすく、症状を軽減することに役立ちます。

さらにこの浮力を利用すれば、人類の宿命ともいうべき腰痛の予防に役立てることができます。ふだん重いものを持ちなれない人が、たまに力仕事をするとギックリ腰になったりしますが、人間は二本足で立った時から腰痛とは切っても切れない関係にあるのです。腰痛のほとんどは腹背筋という筋肉の弱体化から起こるといわれていますが、この筋肉が衰えると血液循環が悪くなり、凝った状態になるのです。これが腰の痛みにつながっていくのです。

こんな場合に有効なのが浮力を利用したお風呂の中での屈伸運動。湯船の中でゆっくり腰を曲げたり伸ばしたりしてみてください。体重の負担がかかりませんから、陸上よりずっと楽に動かせるはずです。これに温熱効果が加わり、こわばった筋肉がほぐれて血行が活発になって腰痛はある程度改善されるはず。一気に直そうとせず(大体1回で治ることはありません)、気長に繰り返すことが大切。決して無理に曲げ伸ばししてはいけません。

この浮力を利用した体の改善は、小さな家庭の湯船ではあまり効果は期待できません。広い湯船、さらにできれば深い湯船が効果的です。『銭湯養生訓』(神藤啓司著・草隆社刊)には深風呂入浴中に体をどのように動かすか、それによってどんな効果があるかが詳しく説明されていますから、興味のある方は参考にしてください。

銭湯の中にはプールを設置しているお店もあります。このような銭湯では水中ウォーキングやウォーターエクササイズなどの運動も可能です。こうした運動を指導する人がいる銭湯もありますから、是非活用したいものです。

6_0093_th

足立区の大平湯の歩行プール(女湯)

 

また言うまでもありませんが、シャワーだけで済ませる入浴では温熱効果は全く期待できませんし、この浮力効果もなおさら期待できません。入浴で得られる体にいい物理効果は、ぜひ銭湯で感じ取ってください。東京都浴場組合では2月から、湯船の中で行うと効果的な体操やマッサージをポスターで紹介します。これを参考にして健康的な銭湯ライフをお楽しみください。

 

%e9%8a%ad%e6%b9%af%e9%a4%8a%e7%94%9f%e8%a8%93_th

『銭湯養生訓』

 

【プールのある銭湯】

そしがや温泉21(世田谷区)
・住所:世田谷区祖師谷3−36−21
・営業時間:14~26時
・定休日:無休(元旦のみ休業)
・交通:小田急線「祖師ケ谷大蔵」駅下車、徒歩5分
・詳しくはこちら

なみのゆ(杉並区)
※プールは偶数日が男性、奇数日が女性。入浴料とは別に要プール利用料
・住所:杉並区高円寺北3−29−2
・営業時間:15~25時(日曜は8~12時も営業、水曜は18時開店)
・定休日:土曜
・交通:中央線「高円寺」駅下車、徒歩7分
・詳しくはこちら

アクア東中野(中野区)
・住所:中野区東中野4−9−22
・営業時間:15~24時
・定休日:月曜(祝日は翌日休)
・交通:総武線「東中野」駅下車、徒歩2分
・詳しくはこちら

大平湯(足立区)
※女湯のみ
・住所:足立区青井6−21−3
・営業時間:14時半~24時(日曜は8~12時、15~24時)
・定休日:月曜(祝日は翌日休)
・交通:東武伊勢崎線「五反野」駅よりバス。「青井6丁目」下車、徒歩3分
・詳しくはこちら

明美湯(足立区)
※男湯のみ
・住所:足立区梅田4−40−21
・営業時間:15~24時(日曜は8~12時、16~24時)
・定休日:木曜
・交通:東武伊勢崎線「梅島」駅より徒歩13分
千代田線「町屋」駅よりバス。「梅島第二小通り」下車、徒歩1分
JR「鶯谷」駅よりバス。「梅島第二小通り」下車、徒歩1分
・詳しくはこちら