「1010」誌では、かつてさまざまな入浴実験を行っていました。この連載では過去の掲載記事をダイジェストでお届けしています。今回も「大きな風呂と小さな風呂の入浴比較実験」の続編をお届けします。
脳波の次に自律神経への影響も実験してみた!
大きなお風呂は、前回お話ししたように脳波ばかりか、自律神経にもよい影響を及ぼしていることが、この21年前の入浴実験で裏付けられました。
自律神経というのは、自分の意思とは無関係に体の働きを整える神経のこと。意識しなくても呼吸は止まりませんし、食事をしても胃に食物が入れば勝手に消化します。ところが、ストレスを受けると自律神経はバランスを崩し、さまざまな障害をもたらします。よくストレスで胃を悪くするといいますが、これは自律神経の不調によるものです。
交感神経と副交感神経は正反対に作用して体を守っている
ご存知のように、自律神経には交感神経と副交感神経があります。交感神経は「fight or flight(闘争か逃走か)」の神経といわれ、興奮状態のときに働きます。けんかのときには、瞳孔が拡大して目は鋭く異様に光り、末梢神経が収縮するために顔面が蒼白になります。そして心臓の鼓動は早くなり、血圧も上昇、鳥肌も立ってきます。これは交感神経末端から分泌されるアドレナリンというホルモンの仕業なのです。こういう状況のときには、当面不必要な消化活動や唾液の分泌は抑えられ、相手の反応にすぐ対応できるよう、体のウォーミングアップを優先させるのです。
一方、副交感神経は交感神経と全く逆の働きをします。つまり、体を休ませて回復させる神経です。休息時には食事、排便、排尿などをつかさどるアセチルコリンというホルモンが副交感神経の末端から分泌されて、消化液の分泌を促したりするのです。
例えば、いわゆるストレス性胃炎というのは、緊張している精神状態が交感神経を優位にして、消化液の分泌をセーブさせてしまうことから起こります。ですから、食後の安静は交感神経を休めることになり、副交感神経が優位になって消化吸収が促進されるわけです。
入浴で副交感神経を奮い立たせ、安眠へ
とは言うものの、仕事中だから交感神経しか働いていないとか、眠っているから副交感神経しかはたらいていない、というものでもありません。仕事中は7対3で交感神経が優位、ぐっすり眠っている時は9対1で副交感神経が優位、というバランス状態です。気の合う仲間と気持ちよく仕事をしているときは、交感神経が50%ですが、苦手な上司から仕事について説教されている時などは、交感神経が90%というように、優位性は変動するのです。
ところで、日本人の多くは就寝前に入浴しているのではないでしょうか。夕方から夜にかけての時間帯は食事を楽しんだり、1日の疲れを癒したりするリラックスタイム。ですからその際に、副交感神経が優位になると理想的です。
入浴が自律神経にどのような影響を及ぼすか、今回も、家庭用の小浴槽、銭湯の大浴槽、銭湯のジャクジー浴槽、の3つの浴槽で行った実験結果を報告します。
それぞれ30分間イスに座って休んだ後、42℃のお風呂に6分間入浴、その後30分の交感神経と副交感神経のバランス割合、および血圧の変化を調べてみると、イスから立ち上がって浴槽まで歩いたため、入浴時点では3つのケースとも交感神経が優位。しかし、大浴槽とジャクジーは、徐々に副交感神経が優位に立ち、リラックス効果は増大していきます。これは入浴後も継続しました。
思った通り、小さな浴槽では交感神経優位のまま
一方、小浴槽は入浴中も交感神経が断然優位で、窮屈な湯船での入浴は、体の緊張が解けていないということが分かりました。また、血圧は入浴することで一様に下がりますが、最も安定していたのは、ジャクジーの時でした。ある程度のストレスを受けても、入浴してリラックスすれば、寝る前にストレスを解消できます。健康維持にお風呂は欠かせないアイテムなのです。
昼間、ある程度ストレスを受けても、入浴してリラックスし、寝る前にストレスを解消してしまう生活パターンにすることが、健康維持には欠かせません。入浴実験からも分かるように、浴室のスペースや環境が心にも体にもかなり大きな影響を及ぼしているのです。家庭の狭い浴室にある小さな浴槽での入浴は、大柄な人はそれこそ身を縮めなくてはならず、これではなかなかリラックスできません。
内風呂では、体は清潔にできても、心にたまった垢までは落とせません。そこで注目されるのが町のお風呂屋さんなのです。毎日は無理でも、週に3回くらいは銭湯のお風呂でストレスを解消するのが、医学的見地からみても現代人には必要といえるのではないか、この実験を指導した阿岸祐幸教授(当時)はそう述べています。では、自律神経のバランスを整えるにはどんな入浴法がいいのでしょうか。ぬるめのお湯にゆったり長時間か、熱めのお湯でカラスの行水か。
来月はこの問題にちょっと寄り道してみましょう。
(「銭湯で元気!」は毎月第2金曜日に更新します)