医者泣かせの病気が「自律神経失調症」だと言われています。あるいは、医者の手に負えない病気を「自律神経失調症という病名」でくくる、という言い方をする人もいます。生活習慣病や感染症などの「病気らしい病気」と比べると、自律神経失調症は明らかに異質なもののように見えますね。生命の危機というほど深刻ではありませんが、意外にしぶとくて厄介な不調、それが自律神経失調症です。
梅雨の時期は自律神経失調症が多発すると言われます。あるいは自律神経の乱れが持病の症状を重くすることも多いようです。雨が降ると頭痛がする、梅雨時は古傷や関節が痛む、といった訴えをよく聞きますが、これは耳の奥にある内耳が気圧の変化を感知して自律神経のバランスが崩れ、その結果として痛みを強く感じてしまうからなのです。
雨が降る前は気圧が低下します。この気圧の変化は人間の体に結構ストレスをかけます。ある調査では、梅雨時に体調不良を感じる人は64パーセント。とりわけ「だるい」は頭痛や関節痛よりも多く、気圧や気温の変化によって悪影響を受けるものを総じて「気象病」と呼ぶこともありますが、原因はやはり自律神経の失調にほかなりません。
自律神経とは、心臓や胃腸を動かしたり、暑いときに汗をかいたりといった働きをする、自らの意思でコントロールできない神経のことで、交感神経と副交感神経とから成り立っていることはご存知のことと思います。大雑把な言い方ですが、ストレスがかかったり精神的に緊張しているときは交感神経が、リラックスしているときは副交感神経が、それぞれ優位になっています。では、気圧と自律神経はどのような関係性なのでしょうか。
実は気圧が低くなると、交感神経は過剰に刺激されるのです。自律神経の乱れのパターンで一番多いのは交感神経の乱れですが、特に痛みという症状は交感神経と密接な関係がありますから、古傷が痛むと感じたり、頭痛がひどくなりそうだと心配になったりするのですね。交感神経とは「戦闘態勢の神経」ですから、低気圧の中にいる人の体は知らず知らずのうちに大きなストレスにさらされていることになります。過剰な刺激を受けた交感神経は、その刺激から早く解放してあげることが肝心。つまり、副交感神経が優位になるような方向に無理やりにでも引っ張っていってあげなくてはなりません。特に梅雨時の健康管理はそれが大切になるのです。
ではどうしたらいいか? 健康管理の基本は、どんな場合も食事と運動です。つまり日常生活そのものに対策の基本があります。適度な運動とバランスのいい食事、これはどこでも書いてあることですが、習慣の是正は口で言うほど簡単ではありません。ただ、低気圧で痛みが増す、というタイプの方は、蒸し暑い時期でも体を温める食材をたくさん摂取したほうがいい、とアドバイスする専門家が数多くいます。具体的にはショウガ、ニンニク、タマネギなど。運動の処方は人によって異なりますが、高齢であればあるほど関節の柔軟性を高めつつ筋力をつけていく運動と、ストレッチをより多く加えることではないでしょうか。
この時期、エアコンを使い始める方も多いと思いますが、冷やすよりも除湿を心がけるべきだとアドバイスする医者が多いようです。外気との温度差が大きいと自律神経の乱れ方も増すからです。外気温との差はせいぜい5度以内を保ちましょう。冷え性の方、関節痛や筋肉痛がある方は、この時期でも靴下をはいたり上着を羽織ったりすることが肝要です。冷えはあらゆる場合に人体のリスクを高めると警告する医療従事者が、現代の医学界では主流を占めていると言っていいでしょう。
さて、梅雨時の健康管理法、締めはやはり「お風呂」です。日本人として、なにはなくとも最後はやはりお風呂にすがる、それが自然な生活の知恵ではないでしょうか。
熱いお風呂にさっと入って一日の汗をさっぱり洗い流す……といきたいところですが、今回のテーマではそれはNG。熱いお風呂は交感神経をより刺激してしまうからです。過度に乱れた交感神経の昂りを抑えてあげるには、副交感神経の力を借りなくてはなりません。副交感神経のご機嫌を取るには38度くらい、高くてもせいぜい40度までの、江戸っ子を腐らせる「ぬる湯」に入らなくてはなりません。約15分の我慢です。もちろん肩までしっかりつかる全身浴がお勧め。銭湯なら人気の高い炭酸泉になるべく長い時間、ゆっくりつかりましょう。
梅雨時はぬるめの炭酸泉がおすすめ(写真は練馬区・川場湯)
(「銭湯で元気!」は毎月第2金曜日に更新します)