厚生労働省の平成22年国民生活調査「性別にみた有訴者(病気やけがなどで自覚症状のある者)率」によれば、日本人が訴える症状では肩こりが女性の1位、男性の2位となっています。このように多くの日本人が自覚している肩こりですが、医学的にいうと肩こりという病名はありません。一つの状態、症状なのです。一般に、僧帽筋(首の後ろから肩や背中に至る幅広い筋肉)の血流がなんらかの原因で悪くなり、筋肉が固くなった状態をいいます。
肩こりが起こる原因はいろいろありますが、悪い姿勢で生活する、目が疲れている、肥満やなで肩の体型、歯のかみ合わせの不良、体を締め付ける服装や足に合わない靴、運動不足などが挙げられています。特に、スマホを眺めたりパソコン作業が長時間化した現代では、肩こりを訴える人がますます増加しているようです。
また精神的に緊張しやすい、様々なストレスに常時さらされている、といった人も肩こりを発症しやすいようです。それは体を緊張させる交感神経の働きが優位になり、体の筋肉が強張ってしまうからです。こんな状態を解消する手っ取り早い方法の一つが、入浴といわれています。
ということで、今回も東京都市大学の早坂信哉教授が行った「銭湯利用と健康指標との関連」調査の結果から、肩こりに関する入浴の自覚的な効果について見ていきましょう。表1は銭湯利用者(毎日通う人から、ここ半年以上利用していない人を含む)270名(男性138名、女性132名)について見たものです。もともと肩こりではなかった人56名を除くと、214名(79.2%)が程度の差こそあれ肩こりを感じていました。男女別では男性104名(75.3%)、女性110名(83.3%)です。
《表1 銭湯利用者の入浴と肩こりとの関係》
肩こり症状のあった人のうち、銭湯の入浴で改善したと感じる人は21.5%(男性23.1%、女性20.0%)でした。銭湯入浴しても変わらなかったと感じている人は76.6%(男性74.0%、女性79.1%)、かえって悪くなったと感じている人は1.9%(男性2.9%、女性0.9%)です。男女で目立った差はありませんが、5人に1人は銭湯入浴で肩こりが改善したと考えていることがわかりました(表2参照)。
《表2 銭湯利用者の入浴と肩こりとの関係》(「元から症状なし」を除く)
銭湯を全く利用しない人ではどうでしょうか。表3は銭湯を全く利用しない人257名(男性129名、女性128名)について見たものです。もともと肩こりではなかった人89名を除くと、168名(65.4%)が肩こりを感じていました。男女別では男性73名(56.6%)、女性95名(74.2%)です。
《表3 銭湯「非」利用者の入浴と肩こりとの関係》
肩こり症状のあった人のうち、自宅の風呂の入浴で改善したと感じる人は13.7%(男性13.7%、女性13.7%)でした。家で入浴しても変わらなかったと感じている人は81.0%(男性82.2%、女性80.0%)、かえって悪くなったと感じている人は5.4%(男性4.1%、女性6.3%)です。こちらも男女で目立った差はありませんが、10人に1人強が家庭の風呂の入浴で肩こりが改善したと考えていることが分かりました。銭湯入浴と家庭風呂入浴との差が分かります(表4参照)。
《表4 銭湯「非」利用者の入浴と肩こりとの関係》(「元から症状なし」を除く)
興味深いのは、銭湯入浴する人もしない人も、肩こりは女性のほうが多いということ。ある企業が行なった調査では、20〜50代の女性の約65%がつらい肩こりや痛みに悩まされていることが分かりました。女性銭湯利用者の場合は83.3%(132人中110人)ですから、肩こりを感じる女性が銭湯入浴に活路を見出そうという傾向が高いということでしょうか。
ではなぜ、女性に肩こりが多いのでしょうか。いくつかの理由が考えられています。まず、首や肩の筋肉量が男性より少ないこと。男性よりも少ない筋力で重い頭を支えなくてはならないため、筋肉が緊張する結果、血管が圧迫されて血流が悪くなり、疲労物質がたまりやすいと考えられています。さらに女性に多い冷え性が、血流の悪化を招くことが肩こり傾向に拍車をかけると考えられます。
入浴によって、肩こりが改善しなかったという人の割合は、銭湯と家庭風呂で大きな差はありません(銭湯非利用者の割合が若干大きい)。ほかの症状の場合も同じですが、入浴行為はいくつかの症状緩和に役立つことが分かってはいるものの、食生活や運動などの習慣を合わせて改善していかなければ根本的に治るものではありません。
また、入浴の仕方も大切です。肩こりを和らげる場合は、基本は肩まで浸かって温めてあげることです。肩まで浸かったら、肩や首を回すなどの運動をして筋肉をほぐすとさらに効果的でしょう。肩周辺の筋肉である僧帽筋などが緊張で硬くなってしまうことによって、血流が悪くなることから肩こりは生じます。ですから、肩まで温められるくらいのお湯を張り、肩まで浸かって温めるのがベスト。肩こりに効果が高いのは40℃のお湯に10分くらい浸かることです。ややぬるめのお湯にじっくりと浸かることで副交感神経に働きかけ、心身のリラックス効果を生み出すためです。
家庭のお風呂は小さくて狭いので、肩まで浸かるのが窮屈と感じる人もいるでしょう。ゆったり感がないために、10分間の入浴が難しいのかもしれません。これが、銭湯で改善したと感じる21.5%と、家庭風呂で改善したと感じる13.7%の差なのかもしれません。
肩を温めたら、もっと積極的に肩こりを解消していくために周辺をストレッチしましょう。肩を前後に回し、硬くなった肩甲骨をほぐしていきます。肩甲骨を後ろでぐっと寄せるように回すといいでしょう。前後にほぐれたら、上下にもほぐしていきます。肩をぐっと上に引き上げ、息を吐きながら、一気に力を抜いて、肩を落とします。これを2~3回繰り返し、肩周りの血流をアップさせます。
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