銭湯入浴で体の不調が改善できた、と自覚する人が結構多いということについて前回報告しました。特に冷え性、精神的なストレス、疲れやすい、腰痛といった不調の改善率が高い(不調を感じている人の2割以上が改善を自覚)ことが分かりました。そこで今回は、最も改善したと感じている人が多い「冷え性」について掘り下げて検討してみます。

冷え性とは、「西洋医学的な概念ではありません。病というより、主観的感覚なのです」(早坂信哉著『たった1℃が体を変える』KADOKAWA刊)。どういうことかというと、体が冷たいと感じる部位は血流が悪い、言い換えれば血液の流れが悪いから冷えを感じる、ということです。つまり血流に由来する生理現象なのです。

暑いときは四肢の末端や皮膚表面近くにある血管を拡張させ、血液の流れる量を増やすことで外気に向けて熱を逃がそうとします。それでも足りなければ、汗を出すことで熱を逃がします。逆に寒いときは、四肢末端や皮膚表面などの血管を収縮させて熱が体外に逃げるのを防ぎ、心臓や肝臓など重要な臓器が集まる体の中心部に血液を集めて、体温を維持しようとします。そのため血液が行き渡りにくくなった手先や足先は、温度が下がるのです。

ではどうして冷えやすい人と冷えにくい人がいるのでしょうか。冷えやすい人は体内で熱が作りにくい人です。1日のエネルギー消費の60~70%を占めている基礎代謝は、筋肉が約38%を占めているため、筋肉の量が少ないと、生み出せる熱が少なくなってしまうのです。男性より女性に冷え性の人が多いのは、筋肉量が少ないからです。だから無理なダイエットでさらに筋肉量を減らしてしまうと、慢性的な冷えに結びついてしまう可能性があるのです。

作られた熱が全身に届かない人も冷えやすい傾向があります。たいていは自律神経のバランスの乱れによるもので、血流が滞って全身に熱が送られなくなるのです。食べ過ぎで消化のために血液が胃腸に集中し、熱産生量の多い筋肉などへの血液供給が減ってしまうことも、冷えやすい原因になります。また、水分代謝のよくない人が水分を取り過ぎ、体内にたまり過ぎることによって冷えやすくなることもあります。

冷えによって起こる症状は人それぞれ。冬は足先、指先が冷えることが多い半面、夏は肩やお腹など、体幹部に冷えを感じる人が増えています。こうした冷え傾向が進んでいくと、疲労感、不眠、イライラ、集中力の欠如、偏頭痛、肩こり、食欲低下といったさまざまな症状が現れるのです。

冷え性の人はどのくらいいるのでしょうか。病気ではないので実態はつかみにくいのですが、ある衣料品メーカーの調査結果(男女530人を対象)では、冷え性だと感じる人が女性で66.6%、男性で43.2%の割合になるとしています。女性は3人に2人の割合ですから、相当悩んでいる人が多いのでしょう。東京都市大学の早坂信哉教授が行った「銭湯利用と健康指標との関連」調査でも、銭湯利用者の女性132人中、「冷え性ではない」と答えたのは25名、18.9%に過ぎません。8割以上が冷え性を自覚していたのでした。また、「冷え性ではないと答えた人の男女別では女性は約3割、つまり、断然女性に特有の症状ということができます(表1参照)。

表1 銭湯利用者の入浴と冷え性の関係

では、冷え性の人にとって銭湯入浴はどうだったのでしょうか。前回お知らせしたように、全体では27.5%の人が「銭湯入浴で改善した」と答えましたが、冷え性を自覚している女性では33.6%《107人中36人》が改善したと答えています(男性は19.8%《86人中17人》)。つまり冷え性の女性の3人に1人が、銭湯入浴の効果でよくなったと感じているわけです(表2参照)。

表2 銭湯利用者の入浴と冷え性の関係(「元から症状なし」を除く)

この数字を銭湯「非」利用者と比べてみると、興味深い事実が浮かび上がります。銭湯「非」利用者で冷え性を自覚している人は257人中115人でした。このうち女性は42名で、女性全体の32.8%《128人中42名》、つまり銭湯を利用しない女性は冷え性ではない人が多い、ということになります(表3参照)。

表3 銭湯「非」利用者の入浴と冷え性の関係

では冷え性の銭湯「非」利用者が、自宅の風呂に入ることで改善したと感じている人の割合は? このケースでは男性19.6%《56人中11人》、女性9.3%《86人中8人》という結果になりました(表4参照)。

表4 銭湯「非」利用者の入浴と冷え性の関係(「元から症状なし」を除く)

つまり銭湯利用者と銭湯「非」利用者を比べると、入浴(銭湯・自宅の風呂)により冷え性が改善したと感じる男性の比率はほとんど同じなのに対して、女性の比率は3.6倍の差がつきました(33.6%と9.3%)。

この数字から見る限りにおいて、入浴による冷え性改善効果は、銭湯を利用する女性のほうが断然可能性が高くなるということです。なぜでしょうか。前出『たった1℃が体を変える』にこう書かれています。

「冷え性の改善のためには、入浴で血流をよくしてあげることが効果的です。(-中略-)寝る1~2時間前に40℃の湯に15分ほど入って、じっくり体を温めましょう。なお、40℃15分では満足できない人もいると思います。その場合は最後に42~43℃で追い炊きをすると、『温まった』という満足感を得ることができると思います。この『温まった』という感覚が冷え性改善につながります。」

銭湯で冷え性が改善する可能性が高い理由は、「温まった」という感覚が家庭の風呂より高いためではないでしょうか。特に冬場、家庭の浴室は気温が低くなりがちで、入浴していても湯船のお湯はどんどん冷めていきます。追い炊きで多少カバーはできたとしても、温まった感の満足度は温泉などに比べるとかないません。

銭湯は42~43℃以上の店もありますが、血圧や心臓に問題のない人ならば (多少温度は高くても) 慣れた銭湯の湯温で十分に温まることは冷え性改善の早道かもしれません。大切なのは、寝る1~2時間前に温まる、ということかもしれません。十分に温まっても、時間がたつにつれてその熱が体外に放出されてしまい、その結果寝つきにくくなる可能性があります。布団に入ってから冷えを感じて寝つけなくなるのは逆にストレスを増してしまいます。入浴を冷え性改善の方法として試してみようとするならば、就寝時刻とのインターバルに注意してください。


銭湯の検索はWEB版「東京銭湯マップ」でどうぞ