過去3年以内の銭湯利用者280名、それ以外の者278名を対象とした、銭湯と「しあわせ」に関する調査で、「お風呂に毎日入る人は幸福になる!」という結果が出たことを前回お知らせしました。今回は、その調査データをさらに細かく見ていくことにします。
お断りしておきますが、全国浴場組合連合会が一般財団法人日本健康開発財団に委嘱して2018年に行なったこの調査については、今年度その結果をさらに精査し、医学的観点から詳細かつ専門的な分析と考察が行われることになっています。本欄はそれとは別に、以下の条件に基づいて調査データのクロス集計を行いました。
①1回でも銭湯に行ったことのある人は「利用者」として集計した
②10点満点で自己採点した主観的な幸福感について、8~10点を「非常にしあわせ」、4~7点を「まあしあわせ」、0~3点を「あまりしあわせではない」と区分けした
③今回は②について、男女別ではどうか、世代別(20代~60代までは10歳ごと、70歳以上はまとめる)ではどうか、地域別ではどうか(東京・神奈川・千葉・埼玉の1都3県を首都圏、大阪、京都、兵庫の2府1県を関西圏、それ以外の道県を「その他」として集計)、の3項目で利用者と非利用者を比較した
集計結果は以下の表に示しました(オレンジ色の列は利用者、白の列は非利用者で、それぞれの数字の単位は%、小数点第1位を四捨五入したため合計が100にならない項目もあります)。数字が赤くなっているのは、それぞれの対照群との差が5ポイント以上開いているものです。
まず男女別。「非常にしあわせ」と答えた人の割合は男性のほうがやや高く、非利用者と利用者の差は7ポイントでした(「まあしあわせ」では非利用者のほうが8ポイント高くなり逆転します)。一方「あまりしあわせでない」女性の割合は非利用者のほうが5ポイント高いことがわかりました。銭湯利用者は男性のほうが「しあわせ感」が高く、女性は銭湯非利用者のほうが「ふしあわせ感」が高いというわけです。
男女におけるしあわせの価値観は多様で様々な説もありますから、このデータから断定的な結論を出すのは難しいと思います。ところが、性別ではなく世代別にしあわせ度の比較をしてみると、興味深い差があることがわかりました。
まず、30代の「非常にしあわせ」は銭湯利用者のほうが非利用者より24ポイントも高いことです。40代の16ポイント、60代の7ポイントをしのぐ高さですが、銭湯利用者としあわせ感の関係はこの働き盛り世代に特徴的なことと言えるでしょう。そして注目点は、50代と70代以上で利用者と非利用者の「非常にしあわせ」が逆転すること。50代は7ポイント、70代以上は8ポイント、非利用者の「非常にしあわせ」が高くなることです。
一方「あまりしあわせでない」は30代で8ポイント、40代で7ポイント、非利用者の割合が高くなるのです。「非常にしあわせ」と「あまりしあわせでない」の2項目の比較から見えてくることは、社会でもまれて最も忙しく、ストレスの多い年代ほど銭湯がしあわせを感じさせる要素になっているのかもしれないということ。また、定年による日常性の変化や身体的な変調をきたしがちな60代も、銭湯が不安をしあわせ感にギアチェンジする微妙なきっかけになっているのかもしれない、という推測も成り立ちます。
こんなふうに推し量ってみると、「人生もうひと踏ん張り的」な50代、「人生ほぼ分かってしまった的」な70代以上に、銭湯によるしあわせ感がいまひとつコミットしにくい理由もうなづけるかもしれません。いずれにしても、苦しみを感じる世代に銭湯の福音があるのではないか、ちょっと強引かもしれませんがそう言い切ってしまいましょう。
ところで、銭湯としあわせ感の関係に地域差はあるのでしょうか。調査データはこの点でも興味深いものを示唆しています。銭湯としあわせ感の関係性は、関西圏で顕著だということ。「非常にしあわせ」は首都圏で4ポイント、その他地域で1ポイント、利用者のほうが非利用者より割合が高いのに比べ、関西圏ではなんと10ポイントも高いのです。しかも、反対に「あまりしあわせでない」は13ポイントも銭湯利用者の割合が低いのでした(首都圏はわずか3ポイント低いだけですが)。
なんと申しましょうか、気質の違い?
その他の地域は浴場数において、首都圏や関西圏と圧倒的な差がありますから、この数字から見えてくるのは西の人のほうが銭湯としあわせの関係性が高い、ということでしょうか。考え過ぎかもしれませんが、関西圏は平成の30年間にかなり深刻な震災を2回経験していることと無関係ではないような気もします。人口密集地で一時的とはいえ、入浴不可能な体験を持つ関西圏の人たちのほうが、お風呂に対する感性を研ぎすませているという意味で。もっとも、そういう体験、しないに越したことはありませんが。(以下、次号)
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