高級住宅街としてのイメージが強い広尾。そんな広尾の地下鉄の駅と、ほぼ直結と言っていい絶好の立地に、100年ほど前から店を構える銭湯があることをご存知だろうか。その銭湯の名前は「広尾湯」。今回は2017年7月にリニューアルオープンをした、その広尾湯を訪ねた。
東京メトロ日比谷線広尾駅2番出口を出て、眼に飛び込む交差点の信号を渡らずに、そのまま道なりに右手に進むと、通りの向こう側に上島珈琲店があり、その並びにはスターバックスもある。さすがの広尾、カフェの激戦区でもあるのだなと歩いていると、駅出口から1分とかからずに広尾湯に到着する。
店の前に立てば、看板とのれんに施された「廣尾湯」の筆文字が出迎えてくれる。以前から広尾湯を利用していた方であればピンとくるかもしれないが、この文字はリニューアル前から広尾湯の桶に施されていたものと同じ。先代のご主人が書かれたこの筆文字を、リニューアルに伴い、看板とのれんにも採用したとのこと。
のれんをくぐり、扉を開ければそこには高い天井と広めの休憩スペース、そして年季の入ったフロントが出迎えてくれる。タオルやシャンプー、石けんなどは持ち込みが前提なので、手ぶらで入浴する際は入浴料を支払うタイミングで一緒に購入・レンタルするとよいだろう。
脱衣場のロッカーや浴室のタイルなどは、リニューアルによる真新しさを最も感じられるポイントだ。行き届いた手入れを含めて、非常に清潔感を感じる。その一方で、フロントの梁や浴室のタイル壁画などはリニューアル前のものを残し、新旧が一体となった造りとなっている。
浴室に入ればヨーロッパの風景を思わせる壁画がお出迎え。広々とした洗い場はリニューアル前と変わらず、お客さん同士が隣を気にせずゆったりと体を洗ってほしいという配慮がなされている。バリアフリーに対応するため、手すりを新設したこともポイントだ。
湯船は気泡風呂とジェットバスの2種類があり、それぞれ座風呂・立ち風呂で湯船の深さが異なる。お湯の温度は42~43℃前後なので、ゆっくりと入っていられるだろう。特にリニューアル後に好評なのがジェットバスの立ち風呂。95cmの深さがある湯船に身をおさめれば、三方向からジェットが体をもみほぐし、リラックス効果は抜群。ぜひ体験してみてほしい。
2017年5月から約2ヵ月間続いたリニューアル工事。その内容は、配管の全面交換とそれに伴う内装の刷新で、工事は広尾湯のいたるところに及んだ。ご主人にお話をお聞きしたところ、「当初は客離れの心配もあったものの、蓋を開けてみればそれは杞憂でした」とのこと。
「長年この場所でお店を開いていることもあり、常連さんの中にはご年配の方も多くいらっしゃいます。その方たちのためにも、基本的には今までの面影をできるだけ残すようにしました」と常連さんを気遣いつつも、リニューアルで新規のお客さん、特に家族連れやカップルでの来店が増えた、と笑顔で語るご主人。
「先代からの付き合いのご家族もいらっしゃいます。親子三代で使ってくださることも珍しくありません。やはり親御さんに連れてきてもらわないと、お子さんにとって銭湯という文化は日常生活の中に登場しないこともあり、そういったご縁はとても大切にしています」と常連さんに触れる一方で、「背広姿の会社員の方もいれば職人さんも利用してくださる。そういった普段接点のない人たちが風呂場で仲良くなり、一緒に帰ったりする光景に出会える。これも湯屋で働くことの楽しみです!」と熱のこもったコメント。
「うちはお客さんに恵まれたネ」と、ご主人は最後に嬉しそうに語ってくれた。
(写真・文:銭湯ライター 中山英樹)
【DATA】
広尾湯(渋谷区|広尾駅)
●銭湯お遍路番号:渋谷 15番
●住所:渋谷区広尾5-4-16
●TEL:03-3473-0624
●営業時間:15~24時
●定休日:水曜
●交通:東京メトロ日比谷線「広尾」駅下車、徒歩1分
●ホームページ:–
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