「銭湯で働きたい」「銭湯を経営してみたい」と考える未経験の方を対象に、銭湯の経営や仕事の魅力を伝えつつ、実際の業務を体験してもらい、将来的に銭湯での就業につなげることを目指す「第4回 銭湯の担い手養成講座」のステージ1とステージ2が2024年6~7月に開催されました。
■掃除体験、銭湯経営の収支についての講義
6月に2回実施された「ステージ1」には、計16名(1回8名)の定員に対して約100名の申し込みがあり、第1回~第3回に引き続き、銭湯の仕事への関心の高さがうかがわれました。
講座の会場となった府中湯楽館 桜湯(府中市)は、約2年の休業を経て2020年1月に再開した銭湯です。講座当日は、桜湯オーナーの佐伯雅斗(まさとし)さんが講師を務め、開店準備全般の説明、銭湯全体の見学、浴室の掃除、銭湯経営に関する講義などが行われました。
店内の見学では、脱衣場を大正ロマンを感じさせる雰囲気にリニューアルした狙い、浴室では薬湯や白湯などそれぞれの浴槽の特徴、バックヤード見学では湯を沸かす仕組みや水質管理のための塩素添加、バーナー等の自動制御などについて説明を行いました。
大正ロマンをコンセプトにした改装について説明
浴室の換気の重要性について解説
お湯を沸かす仕組みや循環、シャワーやカランへお湯が流れる仕組みを学ぶ
湯船のお湯をきれいにする循環ろ過装置の説明風景
見学の後は、清掃作業へ。男女の浴室に分かれて清掃作業に取り掛かりました。気温・湿度ともに高い浴室での作業のため、参加者はみな汗だくとなりながらも、熱心に取り組んでいました。
壁や鏡も磨く
椅子は裏側まできれいに流す
深い浴槽も丁寧にこすり洗いをする
床は洗剤を撒いてブラシでこする
清掃後は休憩をはさんで、銭湯経営に関する講義がスタート。東京の銭湯利用者数の推移から始まり、桜湯を再開させるために掛かった費用、リニューアル後の収支、新型コロナの影響、サウナブーム、銭湯の経営形態や物件の探し方など多岐にわたりました。
設備が老朽化しお客さんも少ない状態だった桜湯を、どのようにリニューアルしたか、そして経営を引き継いで以来どのようにサービスを改善していったのか具体的に解説する内容に、受講生は興味津々の様子でした。
モニターを見ながら、経営についての講義
講師の佐伯さんは最後に「銭湯はお客さんがたくさん入っても経費はそれほど増えないので、損益分岐点を超えると利益が上がりやすい。入るようになるまではいろいろな工夫が必要で大変だが、商売としては魅力的な業種である」と、銭湯経営の魅力を語りました。
6月29日に参加した皆さん
6月30日に参加した皆さん
■お湯を沸かす仕組みについて学ぶ「ステージ2」
7月27日には、第1回~第4回のステージ1の修了者から12名が参加してステージ2が開催されました。会場は武蔵村山市の砂川湯、立川湯屋敷 梅の湯、立川市・松見湯で、それぞれ異なる湯沸かしシステムについて学びました。講師はステージ1に引き続き、立川湯屋敷 梅の湯のオーナーでもある佐伯雅斗さんです。
ステージ2最初の会場となった砂川湯
都内の銭湯ではガスを燃料とする銭湯が多いですが、砂川湯では昭和の時代より湯を沸かすのに使われてきた「平釜」を使用し、薪で湯を沸かしています。長さ4m以上ある煙道を燃焼ガスが通ることで水を温め湯を沸かす、銭湯ならではの独特の釜の構造や、薪の燃やし方、掃除方法などの説明を受けた後、参加者は実際に薪をくべる体験も行いました。また、砂川湯では現在は使われていないものの、可動式バーナーを設置することで薪の代わりに重油を使用する方法の説明が行われたほか、重油の貯蔵庫、排水の熱を利用して井戸水の温度を上げる温水器、釜の掃除道具など、普段はなかなか目にすることができない昔ながらの銭湯のバックヤードを見学しました。
炎天下の中、薪の保管方法を説明する佐伯さん
釜に実際に薪をくべる作業を体験
薪でお湯を沸かす平釜の仕組みを学ぶ
見学の後は質疑応答の時間も設けられた
続いてバスで立川湯屋敷 梅の湯へ移動。こちらは平釜を使用する砂川湯とは異なり、お湯を沸かす装置としてボイラーが設置されているほか、バーナー、浴槽装置などすべてが全自動制御。ろ過器、温水器、塩素添加装置などは地下に設置してスペースを有効活用しているほか、広さを確保するため、男女の浴室を1階と2階に分けるなど、砂川湯とは全く異なる構造をしています。「トラブルが起きない限りは機械室に来ることはあまりない」と佐伯さん。すべてを手動で行う砂川湯との違いに受講生は驚きを隠せない様子でした。
全自動化されている梅の湯の機械室
お湯が循環する仕組みを学ぶ
昼食後は質疑応答の時間
熱心に質問する参加者
梅の湯での講義の後は、バスで2022年4月にリニューアルオープンした松見湯へ移動。
銭湯のシンボルマーク「ゆ」が目印の松見湯
松見湯の湯沸かしシステムには、家庭でよく使われている「瞬間湯沸かし器」が採用されています。店の裏には瞬間湯沸かし器が5台設置されており、浴室のお湯の使用量に応じて、稼働する台数が増減するという、最新のシステムです。
「瞬間湯沸かし器」を採用した最新の湯沸かしシステム
排水を利用して井戸水の温度を上げる温水器
お湯を沸かして貯めておく平釜やボイラータイプよりも、熱効率に優れる最新の湯沸かしシステムとバックヤードを案内された受講生は、先に見学した松見湯、梅の湯とは全く異なる仕組みを熱心に観察していました。
浴室でお湯づくりについて説明
浴室デザインのはやりについても解説
松見湯のバックヤードと店内を見学した後、佐伯さんより受講生に修了証が手渡され、ステージ2の講座は終了。
受講生からは「薪は費用がかからないのは魅力的だが体力が必要そう」「一口にお湯を沸かすといっても、お店によって構造が全然違うところが面白かった」「薪をくべる体験ができてよかった」などの声が聞かれました。
ステージ2に参加した皆さん
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