写真提供:大塚仲町 大黒湯
「いい風呂の日(11月26日)」に今年2回目のじゃばら湯が都内の銭湯で行われます。筆者はじゃばら湯という催しがなければ、恥ずかしながらジャバラの存在を知らなかったのですが、農林水産省特産果樹生産動態調査によると、全国で収穫されている柑橘類は83種類あり、ジャバラは生産量で49位だそうです。世界には900種類以上の柑橘類があるとされていますが、その約1割を占める品種を持つ日本は、柑橘大国といえるのかもしれません。
このジャバラの実を湯船に浮かべるじゃばら湯は、「邪気を払う」と言い伝えられています。はて? 確か菖蒲湯や柚子湯も同じように邪気を払うと言われていたような……。ただ、ジャバラはまさに「邪気を払う」が語源となっているようです。原産地は和歌山県の小さな山村「北山村」。そこには、ユズでもない、スダチでもない、「変なミカン」が自生していました。 一説によると、ユズとクネンボ(九年母)という柑橘が交雑し、寒さに強い品種が残ったとか。それは鬼も逃げ出す酸っぱさで、北山村では昔から天然食酢として珍重され、正月料理に欠かせない縁起物として食されていました。
ジャバラを浮かべた湯船
その後ジャバラは他の土地へも伝えられました。銭湯で使われるジャバラは、三重県に次いで全国3位の収穫を誇る愛媛県の内子町産です。このジャバラに着目して初めて研究報告をしたのが、原産地の和歌山県でした。ジャバラと花粉症についての研究が始まったきっかけは、毎年20キロ単位で何度も買い求める人がいたことでした。村役場がこの人に問い合わせると、「子供の花粉症のために毎晩飲ませている」との回答がありました。半信半疑で役場の職員がモニター調査をしたところ、49.5%の人が花粉症の症状が改善したというのです。
県工業技術センターは2003年、「カンキツ果実の脱顆粒抑制作用の探索」と題する論文を発表し、ジャバラの効果を確認しました。「脱顆粒抑制」とは、体内に広く分布しているヒスタミンがアレルギーの原因となる物質の体内侵入によって活性化し、痒みやくしゃみなどを起こす「脱顆粒」現象を抑える作用をいいます。簡単にいうと、体の中にあるアレルギーに過敏な成分を鎮める作用、ということでしょうか。この研究報告はジャバラに関する基礎研究の嚆矢ともいえるものでした。そして、ジャバラに含まれる「ナリルチン」が効果をもたらすことを突き止めたのです。
「カンキツ果実の脱顆粒抑制作用の探索」
ジャバラの研究はこれだけにとどまりませんでした。2008年、岐阜大学医学部がジャバラ果汁の飲用によって花粉症の改善のみならず、QOL=Quality of life(クオリティ オブ ライフ)の改善ももたらしたという研究論文を発表しました。この研究では、29~59歳の花粉症患者15名に北山村のジャバラ果汁を朝夕5ml、2週間にわたって毎日飲んでもらいました。その結果、鼻水、くしゃみ、鼻づまり、鼻や目のかゆみ、涙目といった花粉症の症状が全て改善された、という結果を得ることができました。さらにQOLについて、仕事の支障、疲れやすい、精神集中不良、面談に不便、気分が晴れない、運動に支障など、31項目中21項目について改善された、という結果が出たのです。
「スギ花粉症の症状とQOLに対する「じゃばら」果汁の効果」
ジャバラ研究はさらに進みます。これらの研究を受けて、より科学的に追究しようとジャバラに注目したのが東京家政大学。2020年、澤田めぐみ教授は東京医科歯科大学、池袋大谷クリニック、こじま内科呼吸器科クリニックなどと共同で「和歌山県北山村産柑橘類ジャバラの花粉症に対する効果および客観的な花粉症治療効果指標の探索」という論文を発表しました。これまでの研究が、培養細胞を使った基礎研究だったり、十分な臨床試験ではなかったりしたため、二重盲検によってより確実に効果を確認しようとした経緯から始まった研究です。
「和歌山県北山村産柑橘類ジャバラの花粉症に対する効果および客観的な花粉症治療効果指標の探索」
花粉症と診断された被験者13名による東京家政大学の研究では、ジャバラ果汁の飲用によって「摂取180分後において、自覚症状を有意に改善することが明らかになった」とされ、それまでは2週間以上の長期間の飲用効果とされてきたものが「短時間で効果が得られる」ことが証明されました。また、ジャバラに含まれるナリルチンという成分の摂取量によっても効果が異なることが分かりました。ナリルチン量6.6mg群と8倍の50.5mg群とでは、後者のほうが生体のアレルギー反応抑制効果を高める期待が持てる結果になったということです。
ナリルチンには、免疫の正常化や皮膚・粘膜の炎症改善といった効果も期待できるとされています。これらの効果はジャバラの果汁を飲用することで証明されたものですが、ナリルチンは果汁よりも果皮に13倍も多く含まれていると言われていますから、皮ごと湯船に浮かべるじゃばら湯に漂う香りにもいい効果がありそうです。
切ったジャバラからは爽やかな香りがふんわりと広がる
花粉症をポイントとして研究が進んできたジャバラ。花粉症はアレルギー症の一種で、その発症メカニズムを考えれば、掻痒(そうよう)症などほかのアレルギー症状の改善も期待できるかもしれません。そんなことを考えながら11月26日のじゃばら湯をぜひお楽しみください(※地域や各銭湯によって実施日が異なる場合があります。諸事情により実施しない場合もありますので、SNSやご利用の銭湯にご確認ください)。
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