複数の路線が乗り入れ、周囲には都内屈指の繁華街が広がるJR蒲田駅。西口を出て徒歩7分ほどの場所にある改正湯を訪ねた。入り口には、屋号が白で染め抜かれた粋な暖簾がゆれている。

 創業は昭和4年。昭和46年に現在のビル銭湯となり、平成23年に4代目の小林千加史さんが自らのアイデアをふんだんに盛り込んだ改装を行い、現在のオシャレな店へと生まれ変わった。

 改装にあたり、小林さんが「なにかオリジナルなことをやりたい」と考えついたのが「黒湯炭酸泉」。従来から親しまれていた天然温泉の黒湯に、近頃人気の炭酸泉を加えたのだ。「やっているのはうちだけ」というこのオリジナルの浴槽、美肌効果と保温性に優れた黒湯に血流促進効果がある炭酸が加わることで、さらに効果が増したと大好評なのだとか。「黒湯はずっと温泉認定を取っていなくて、改装時にようやく取ったんですが、お客さんの反応が全然違います。もっと早くとっておけばよかった(笑)」。

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 黒湯炭酸泉のほか、通常の黒湯の浴槽もあり、加えて黒湯の水風呂と、計3つも黒湯の浴槽があるのは驚きだ。つかってみるとわかるのだが、改正湯の黒湯はとにかく濃い。群青色がかった濃厚な黒湯に手をつけると、水面下10cmほどでもう手のひらが見えない。また、黒湯炭酸泉は通常よりも炭酸の濃度を濃い目にしてあるそうで、寒い季節は体を芯から温めてくれるだろう。

 黒湯の隣には白湯のマッサージ風呂。その脇には超微細気泡が毛穴の汚れまできれいにしてくれるシルク風呂も設置してある。

 黒湯炭酸泉につかり、見上げれば、タイル絵の富士山が悠然とそびえたつ。その下でゆらゆらと魚達が行き来するのを見ていると、時間がたつのを忘れてしまう。

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 取材当日は平日にもかかわらず、多くのお客さんが訪れていた。とはいえ改装前は、客層の高齢化や子どものお客さんが少ないなど、入浴客の減少に悩まされていたという。

「改装前は、子どもの日に子どものお客さんがゼロっていうこともあったんです。子どもは無料で入れるにもかかわらず、ゼロ。“ああ、もう子ども達に風呂屋は相手にされてないんだな” ってショックでしたね。それで改装のときは、子どもからお年寄りまで来てくれるお店を作りたいと思ったんです」。

 そこで、元々壁面の水槽で錦鯉を飼っていたため「魚のいるお風呂屋さん」として親しまれていたが、改装時からは子どもたちが楽しめるようにと小さくてかわいらしい小鯉や金魚をたくさん入れるように変更した。また、寒い季節にはチョウザメも入るという。「子どもたちはうちの店を “サメ温泉” なんて呼んでいますよ」と小林さんは笑う。

 さらに子ども達への認知度を上げるため、「金魚と鯉」をモチーフにしたロゴマークを作り、浴室のタイルや看板などに用いたほか、ステッカーも作って配布をしている。「文字が読めない小さなお子さんでも、このマークを見てお風呂屋さんを思い出してもらえたらいいなと思って」。そんな工夫もあって、改装後は子どもや家族連れのお客さんがとても増えた。子どもの日には50人ほどの子どもが訪れるようになったというから、大成功である。

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 その他にも、銭湯では禁止している店が多い「毛染め」には専用スペースを設置、オリジナルパンフレットの配布、ホームページでロケや撮影の受付をPRするなど、小林さんの工夫は枚挙に暇がない。「羽田が近いから、いつかテレビ局のヘリに見つけてもらえるかもしれない」と屋上に大きく屋号と温泉マークを描くユニークな試みも。慣習にとらわれないサービスや積極的なPR活動など、銭湯業界にあっては異色ともいえる斬新なアイデアを生み出しているが、これは10年ほどサービス業で会社員生活を送った経験が大きいという。

 改装による最新の設備に加え、バリアフリー化も行ったことで、子どもからお年寄りまで安心して楽しめるようになった改正湯。改装後はさまざまな媒体への露出やネット、パンフレットでのPRが功を奏し、従来の常連さんに加え、年齢を問わず一見のお客さんが大幅に増えた。「『テルマエ・ロマエ』のヒットをきっかけに、若い人の銭湯を見る目が少し変わってきたのかな、と感じています。次はオリンピックに向けて、外国のお客さんを呼び込みたいですね」と小林さんは次なる展望を話す。「この場所で銭湯を続けることは、自分の使命だと思っています。5代目にバトンを受け渡すまで頑張らないと」とも。

 さて、もう一つ改正湯の特筆すべき点として、家族で経営するスタイルがほとんどの銭湯業界にあって、珍しく番頭さんがいることがあげられる。小林さんが「根っからのお湯野郎」と呼ぶ毎川直也さんだ。「お風呂業界でどうしても働きたい」と大学卒業後に業界入りした毎川さんは、掃除からフロントまで懸命にこなし、今では毎川さんがフロントにいないと残念がるお客さんもいるほど。また、毎川さんは「風呂デューサー」として各種媒体に原稿を提供したり、「都市湯治」「風呂上りの一杯を極める会」などのイベントも主催している。興味のある方はぜひホームページを覗いてほしい。また、他にも若いスタッフがおり、彼らの活躍によって店内はいつも清潔感を維持できているのだとか。

 改装をきっかけに子どもからお年寄りまで、より多くの入浴客を惹きつけるようになった改正湯。世界でここだけの「黒湯炭酸泉」をはじめ、その人気の秘密をぜひ自身の目で確かめてほしい。
(写真・文:編集部)

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洗い場の一角にある毛染め専用スペース

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入り口のシャレた看板が目を引く

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小林千加史さん(左)と番頭の毎川直也さん

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入り口は階段を上った中2階にある


【DATA】
改正湯(大田区|蒲田駅)
●銭湯お遍路番号:大田区 73番
●住所:大田区西蒲田5-10-5
●TEL:03-3731-7078
●営業時間:15〜24時半
●定休日:金曜
●交通:JR京浜東北線「蒲田」駅下車、徒歩7分
●ホームページ:http://www.kaiseiyokujou.com/
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