いま、都内の銭湯サウナが文字通りアツイ。今年3月に発売された『東京銭湯サウナガイド』(株式会社Pヴァイン)は、銭湯好きにもサウナ好きにも楽しめる一冊です。本書には、サウナがある都内の銭湯が多数紹介されています。これまで意外と真剣に語られたことがない銭湯サウナの魅力について、執筆者のひとりで、サウナ愛好家としても知られるサウナーヨモギダさんにお話をうかがいました。

 

東京にはいろんな銭湯があって、いろんなサウナがあります。その違いを、のんびりと楽しんでほしい

――『東京銭湯サウナガイド』は、まさにサウナブームの現在において、ユーザーが欲しかったガイド本です。私もひとりの銭湯サウナ好きとして楽しく読ませていただきました。そもそも本書を作ろうと思ったきっかけはなんだったんですか?

ヨモギダ サウナ好きの出版社の編集さんからお誘いいただいたのですが、企画自体はその編集の方が立ち上げたものです。この本には自分以外にもうひとり、大木浩一さんという方がメインで書かれているのですけれど、自分は最初、執筆のお手伝いをするくらいのお願いを受けたんです。そもそも本の著者名に自分が入ることもよく知らなくて(笑)。

以前同じ出版社から『人生が「楽」になる達人サウナ術』という本が出ていて、その中でも自分はサウナ愛好家として取材されているので、今回もお声がかかったのだろうなと思います。銭湯サウナ自体は個人的に好きで、まだサウナがはやる前の2017年に「銭湯サウナの世界」というトークイベントを主催しました。その後、銭湯に関する活動はあまりできていなかったので、今回銭湯に関する書籍の執筆に参加できたことをうれしく思っています。

 

頑張っている銭湯へのエールになればいいと思いました

――本書では90軒近くの都内のサウナ付き銭湯が紹介されています。その中でも特に「路線別で探せるおすすめ30選」、さらに「女性のためのおすすめ10選」など、利用者が参考にしやすいセレクトが目を引きます。ヨモギダさんにとって、銭湯サウナの魅力とは?

ヨモギダ 「都内の銭湯サウナ」というコンセプトですが、今回本を出してもかなりの取りこぼしはあると思うんですよ。東京の銭湯はいまだ膨大な数がありますから。都内全域でなく、たとえば「23区の銭湯だけ」でも成立したと思います。それでもこの本は、JRの中央線とか京王線とか鉄道沿線における23区以外の銭湯も取り上げています。これは実用的な部分も重要視しているんですよ。たとえば春から東京に進学や就職で上京してきた人が、自分の住んでいる街の沿線にどのような銭湯があって、しかもサウナがあるということをこの本で知ってもらえたらいいと思います。

また、本書はサウナ室の中の様子の写真も多く入れていますので、これまで「大きな施設のサウナはいいけれど、銭湯のサウナはちょっと」と二の足を踏んでいたサウナー女子の方が「こんなにきれいなら、ちょっと近くの銭湯サウナまで」と足を運ぶ参考になればいいと思います。いま、銭湯の課題として「若い女性にどう来てもらうか」というのもあると思うのです。そうした中で頑張っている銭湯へのエールにもなればと思いました。

銭湯サウナは、身近にあって簡素かつ日常に落とし込まれているのが魅力です。個人的にはサウナは機能を重視した簡素な施設が好みです。豪華な設備より質素でシンプルなものに魅力を感じます。数年前から表千家の茶道を習っているのですが、千利休は質素で機能的なデザインを推奨していまして「利休好み」といわれています。「待庵(たいあん)」という茶室が有名なのですが実に簡素かつ質素です。空間としての「室」を追求すると質素なものになるのです。豊臣秀吉は金箔張りの「黄金の茶室」を造りましたが、千利休はこれを肯定していませんでした。豪華なスパ施設のサウナは「黄金の茶室」寄りで、銭湯サウナは「待庵」寄りの思想なのかなと思っています。老舗の古いサウナ室に行くと「これは利休好みだなあ」と心の中でつぶやいています。

 

下町の銭湯に入ると「ガチ人情」を感じます

――ヨモギダさんといえば『熱波師の仕事の流儀』(ぱる出版)の書籍を出すなど、サウナに関する執筆やイベントのお仕事を多くされています。サウナの専門家ともいえるヨモギダさんから見て、現在の銭湯はどのように映っていますか?

ヨモギダ 都内に住んでいて、しかも銭湯が近くにある人は本当に幸せだと思うんですよ。日常のなかに銭湯という素晴らしい空間を取り入れることができるので。もちろんサウナがあればなお良いですが。おすすめなのは普段は歩いて銭湯に行くのだけれど、時々は自転車に乗ったり電車を使って、少し遠くの銭湯まで足を運ぶような使い方。銭湯に入ること自体が健康にいいのはもちろんですが、少しでも遠出をして体をより動かすことで気分的にもいいんじゃないかと思います。

知らない銭湯に行くときに、自分が気を付けているのは「おじゃまします」の気持ちですね。やっぱり地元の銭湯というものは、地元の人たちのものですから。そこだけは大事にしないといけません。逆に、そこさえ気を付ければ、地元の人たちは遠くから来た人たちを受け入れてくれるんですね。それこそサウナ室で「おお、お兄さん。遠くから来たの? 近くにおいしい焼き鳥屋があるんだよ。帰りに寄ってみたら?」とか、ありがたいアドバイスを受けたりとか(笑)。インターネットなんかよりも、濃い情報がありますよね。

やっぱり銭湯に入ってみて「ああ東京でも、このエリアは人情が厚いんだな」というのを感じるというのはあります。それこそ、今日この取材で久しぶりに来た湯どんぶり栄湯さんも「ガチ人情」といいますか、台東区というか下町ならではの風情があると思います。栄湯さんに初めて来た時、「どんなお客さんがいるのだろうか?」とドキドキしたのをいまでも覚えていますね。

最近はデザイナーズ銭湯や本格的なサウナ設備を備えた施設が増えてきました。これには是非があると思うのですが、個人的には肯定的です。デザイン性や機能性が向上するのは望ましいことです。ただし、デザインや設備が変わったのをきっかけに新しい客層が増えて、それまで常連だった地元の方々に受け入れられず、離れていったという話を少なからず聞きます。公衆浴場なのですから、所謂「仲間外れ」の人が出てくるのはちょっと良くないのかな、とも思います。そういう人を作らない工夫を銭湯側にお願いしたいです。最終的にエシカルなものが残っていくべきだと思っています。

 

――銭湯の建物は外から見えますが、中にサウナがあることが分かっても、どのような造りなのかまでは分かりません。そういった意味でも本書は参考になります。ヨモギダさんからみて、よい「銭湯サウナ」に出会うための方法みたいなものはありますか?

ヨモギダ 「運」とか「縁」もあるのでしょうが、心構えとして「純粋な出会いの気持ちを大切にする」というのはあると思います。銭湯もそうなのですが、人は明るくて清潔な場所に自然に集まってくると思うのです。だからこそ純粋な気持ちで触れ合えると思うのですよね。また茶道の話なのですが、「一座建立」という茶道の教えの言葉があります。これは亭主が心を込めてもてなし、招かれた客がそれに感動して感謝し、特別な一体感が生まれるという意味です。その場所である一座を良いものにするために主客協力する。良い銭湯にはそういう雰囲気があります。

これは矛盾でもあるのですが、銭湯によってサウナにもスペックに違いがあると思うのです。いまは検索サイトで「この銭湯のサウナはいいよ」というユーザーが多くいますよね。実際、ドライサウナとミストサウナは違うし、水風呂の存在や温度なども銭湯によってさまざまです。でも、いろんな銭湯があって、いろんなサウナがある。その違いこそを、それこそのんびりと楽しんでほしいかなと。熱いサウナは熱いサウナの楽しみ方をすればいいし、ぬるいサウナはぬるいサウナの楽しみ方をすればいいと思っています。水風呂も同じです。新しいもの、古いもの、それぞれの良さがあります。「こういうものじゃないとダメ」っていう先入観は持たないほうが楽しみの幅が広がるのではないでしょうか。

これほど多くの銭湯が地域にある東京という街は、コミュニティとして健全に機能していると思うのです。銭湯におけるサウナもその良さの一角を担っています。この本が、そういった地域コミュニケーションの最適化の助けにもなればいいかな、と思います。
(取材・文:銭湯ライター 目崎敬三 写真:編集部)

 

サウナーヨモギダ
北海道旭川市出身。 サウナに救われたのをきっかけにサウナの普及活動を始める。 サウナに関する執筆、講演、 コンサルタント、イベントの主催、 メディア出演などを主に行っている。 著書に『熱波師の仕事の流儀』(ぱる出版)。

 

『東京銭湯サウナガイド』(株式会社Pヴァイン) 1385円+税

 

■取材協力:天然温泉 湯どんぶり栄湯 (台東区)
ヒマラヤ岩塩サウナと露天エリアの美泡水風呂(バイブラの水風呂)が人気。浴槽もジェットや薬湯などに加え、超高濃度炭酸泉やシルク風呂など充実の設備で人気の銭湯。
●住所:台東区日本堤1-4-5
●TEL:03-3875-2885
●営業時間:14~24時(日祝は12時~24時)
●定休日:水曜
●交通:東京メトロ日比谷線「三ノ輪」駅下車、徒歩10分
●ホームページ:http://sakaeyu.com/

 

男女問わず人気のサウナ(写真は女湯)

 

シルク風呂や炭酸泉など、浴槽設備も充実