前回に引き続き、じんましんのお話です。じんましんはいろいろな説がありますが、日本人の5人に1人が経験するといわれる病気で、20~40代に多く、男性よりも女性に多いとされています。皮膚に赤い発疹が出たらなんでもじんましんだと考えている人が多いようですが、医学的にはある特定の発疹のみをじんましんと呼んでいます。
じんましんは「急速に出現する皮膚の中のむくみ」で、皮膚細胞からヒスタミンという化学物質が放出されることによって、皮膚の血管が開いて赤く見えるのです。このむくみを膨疹(ぼうしん)と呼びます。赤みやかゆみだけでなく、熱っぽさや痛みを感じる場合もあります。膨疹はいったん現れると次々に発症して広がりますが、長く続いたとしても24時間以内に消失して元の皮膚に戻ります。
前回も説明しましたが、じんましんという病気はいろいろな種類があります。日本皮膚科学会のガイドラインでも4つの群(特発性じんましん、刺激誘発型じんましん、血管性浮腫、特殊なじんましん)と、16の病型に分類されています。一番多いのは7割を占める特発性じんましんで、疲労やストレスが蓄積すると症状が悪化します。食べ物や飲んでいる薬とは関係がないとされ、6週間くらいで治まるものを急性じんましん、6週間以上続くものを慢性じんましんと呼んでいます。前回ご説明したアレルギー性じんましんは刺激誘発型じんましん群に分類されます(別表参照)。
《別表》
じんましんの主たる病型(日本皮膚科学会じんましん診療ガイドライン改訂委員会)
1.急性じんましん(発症後 6 週間以内)
2.慢性じんましん(発症後 6 週間以上)
(特定刺激ないし負荷により皮疹を誘発することができるじんましん)
1.アレルギー性のじんましん
2.食物依存性運動誘発アナフィラキシー (FDEIA)
3.非アレルギー性のじんましん
4.アスピリンじんましん(不耐症によるじんましん)
5.物理性じんましん(機械性じんましん、寒冷じんましん、日光じんましん、温熱じんましん、遅延性圧じんましん、水じんましん)
6.コリン性じんましん
7.接触じんましん
1.特発性の血管性浮腫
2.刺激誘発型の血管性浮腫(振動血管性浮腫を含む)
3.ブラジキニン起因性の血管性浮腫
4.遺伝性血管性浮腫(HAE)
1.じんましん様血管炎
2.色素性じんましん
3.Schnitzler 症候群およびクリオピリン関連周期熱症候群
このように複雑なじんましんの世界ですが、その治療法は専門医に任せるとして、問題は私たちが日常生活のなかでどう対処していかなければならないか、です。前回はアレルギー性のじんましんに効果が期待できる入浴法として、温冷交代浴についてお話ししました。
刺激誘発型じんましんの原因は別表のように、アレルギー以外に6つの病型があり、その一つが「物理性じんましん」と呼ばれるもの。寒さ、圧迫、温熱、摩擦などの原因が挙げられます。物理性じんましんの中でよく知られているのが「寒冷じんましん」。冷たいエアコンにあたって汗が冷えたり、冷水で顔を洗ったりしたときに起こるじんましんです。発症のメカニズムは解明されていないようですが、冷え性と関係があると考えられています。
体の冷えで血行が悪くなり、また水分の代謝が衰えて体内の毒素を排出する機能が弱まり、その結果免疫力が低下するのが冷え性です。冷え性の人は38~40℃のお湯で15分程度全身浴をするのがよいとされていますが、アレルギー性じんましんでお勧めした温冷交代浴は避けたほうがいいでしょう。免疫力が低下しているところに冷水浴を行うと、それが発症の原因になってしまう可能性があるからです。いずれにしても、風呂上がりに体を冷やさないよう保温に心がけることを忘れずに。
寒冷じんましんとは逆に、冷たいところから温かいところへ移動したときに発症するじんましんもあります。同じく物理性じんましんに属するもので、「温熱じんましん」といいますが、例えば気温の低い脱衣場から温かい浴室に入ったときの温度差が刺激になるものです。温熱じんましんの場合、皮膚の表面は40~50度になっているといわれます。したがってこの場合は、熱いお風呂に入らないこと。入浴中に赤いブツブツが出る場合は、冷水を浴びたり冷たいタオルで冷やしたりすることが大切です。
寒冷じんましんも温熱じんましんも、対処法は正反対ですが、寒暖差に反応して起こる点では共通しています。厄介なのはじんましん全体の7%といわれる「コリン性じんましん」。これも刺激誘発型じんましんの一つになりますが、発汗に関係のある「アセチルコリン」という物質の名にちなんだじんましんで、運動をしたり、入浴したりして汗をかくと発症するものです。汗腺機能の衰えている人ほどかかりやすいといわれます。しかもかゆいじんましんではないことが多く、チクチクと痛いのが特徴です。
温熱じんましんとコリン性じんましんは、見た目は似ている点が多いのですが、コリン性じんましんは深部体温の上昇と発汗刺激がきっかけとなって発症するのに対し、温熱じんましんは皮膚の一部が温まる刺激だけで発症する点が異なります。ではコリン性じんましんの場合、入浴はどうしたらいいのでしょうか。発汗機能に問題があるじんましんですから、原則として発汗を促す入浴は勧められない、というのが一般的な考え方のようです。汗をかいてかゆくてたまらない、という場合、とりあえず冷たいシャワーを浴びて発汗を鎮めるのがいい、とアドバイスされています。
しかし、これとは真逆の「汗をかいて刺激を与えよ」という考え方が提唱されました。2021年4月発行の『臨床皮膚科』(75巻5号)に掲載された「コリン性じんましんの発汗刺激療法」(札幌医大・箕輪智幸医員)という論文には、「われわれは、コリン性じんましん患者への治療として、運動や入浴などによる定期的な発汗刺激を治療の一環として取り入れてきた。過去6年間のコリン性じんましん27例について、発汗刺激療法の有効性に関して解析を行ったところ、発汗刺激療法を行った群が、行っていない群と比べ良好な結果を示すことを明らかにした」と述べられています。ただし、コリン性じんましんにも複数のタイプがあるといわれ、どのタイプにも有効かどうかは不明で、有効な刺激の強さもまちまちとのこと。今後の研究成果がまたれます。
そもそも「痛み」に比べて「かゆみ」の研究は立ち遅れていました。命を奪われるのは「痛み」であり、それに比べれば「かゆみ」なんてたいしたことはない、という考え方に医学会全体が支配されていたのです。しかし近年、病的なかゆみは痛みと同じくらい、あるいは痛みよりもつらい感覚であることが世界的に理解されるようになった、といわれています。じんましんを根治するような入浴法はありませんが、症状を軽減するような入浴剤などには工夫の余地はありそうですね。
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