近年「銭湯を経営してみたい」「銭湯の仕事をしたい」と希望する方が幅広い年齢層で増えています。とはいえ、家族経営が多い銭湯の仕事に、未経験の方が新たに関わるのはなかなか難しいのが現状です。
そこで東京都浴場組合では、銭湯で働くことに興味を持っている未経験の方に、銭湯経営や仕事の魅力を伝えつつ、実際に仕事を体験してもらい、将来的に銭湯での就業へつなげることを目的に「銭湯の担い手養成講座」を企画。「ステージ1」は、2021年7~8月にかけて「府中湯楽館 桜湯」を会場に3回実施し、計18名が参加。開店準備全般の説明、銭湯全体の見学、浴室や脱衣場の掃除、銭湯経営に関する講義などが行われました。
次に、今度は実際の就労形態により近い経験を積んでもらおうと、11月20~21日と27~28日に「ステージ2」を開催しました。会場は「立川湯屋敷 梅の湯」で、昼12時から翌日の昼12時までの24時間(休憩を含む)に、脱衣場や浴室の掃除、フロントでの接客などを体験する内容です。受講生は「ステージ1」に参加した方の中から抽選で各実施日に2名ずつ、計4名が参加。講師は「ステージ1」に引き続き、梅の湯のオーナーでもある佐伯雅斗(まさとし)さんが務めました。
充実した設備と1万2000冊以上のマンガの蔵書でも知られる立川湯屋敷 梅の湯
バックヤードでは、設定した時間になると自動的にボイラーが点火して湯を沸かし、浴槽へお湯がたまる仕組みや、排水の温熱を利用することで燃料代の節約に役立つ温水器、お湯を循環させてきれいにするろ過器などについての説明を受けました。ヘアキャッチャーに溜まった大量の髪の毛などの固まりを見て、受講生が驚きの声を上げる場面も。
自動制御でお湯を沸かすシステムの説明を受ける
ヘアキャッチャーに溜まった大量の毛髪に驚く受講生
リンスインシャンプーとボディソープの補充を行う
浴室や脱衣場の見学では入浴客の体調不良時の対応を学んだほか、地震や火事が起きたときの避難路の確認も行いました。
救急隊のタンカが出入りする時だけ使用する脱衣場の非常口
お店の見学が一通り終わった後はフロント業務へ。ロッカーキーと下足札を交換する際の細かいルールや電子マネーの決済方法を学んだほか、サウナに専用マットを設置するなどの開店準備を行います。
開店前にサウナマットを設置
レンタル用のタオルをたたんで準備する
午後3時にお店が開店すると、まずはどっと押し寄せたお客さんを佐伯さんが手際よくさばいていく様子を見学。人の流れが落ち着いたところで、受講生が佐伯さんの助けを借りながら実際にフロント業務に挑戦しました。
ずらりと並んだ男女のロッカーキー。下足札と交換する
佐伯さんが見守るなかフロント業務をこなす受講生
受講生は交互に休憩を取りつつフロント業務をこなし、深夜12時の閉店後はベテランスタッフの指導を受けながら浴室清掃作業へ。1時間に渡る清掃について「スタッフの方たちの手際の良さに驚きました。体力的にもう少し鍛えないといけませんね……」と話す受講生も。
掃除終了後は近隣のホテルに宿泊。翌日は午前10時に出勤すると、今度は佐伯さんの奥様の指導のもと、脱衣場や休憩室の掃除を開始。掃除機をかけるのはもちろん、ロッカーの上のホコリをはらったり、雑巾がけやトイレ掃除などに取り組みました。昼12時前にはすべての掃除を終え、最後に佐伯さんより受講生に修了証が手渡され講座は終了しました。
脱衣場に加え、広いロビーもくまなく掃除機をかける
高所のホコリ払いは専用の道具を使って
受講生からは「浴室掃除のスタッフの方が、丁寧なのにすごい速さで掃除を進めていたのが印象的だった」「浴室掃除は大変だとは覚悟していたが、実際やってみると想像を超える大変さだった。とはいえ体験できてよかった」「覚悟はできているのでぜひ銭湯で働きたい」などの声が聞かれました。
佐伯さんは「掃除も受付も慣れない作業だから余計に疲れる場面があったと思うが、慣れれば体が動くようになる。この講座を機会にぜひお風呂屋さんの仕事に携わってほしい。物件の斡旋だけでなく運営面や資金面においてもバックアップしていくので、ぜひ組合の一員になってもらえれば」と話しています。
東京都浴場組合では来年度はさらなる経験を積む「ステージ3」の実施を予定しています。
11月20~21日の受講生と佐伯さん(中央)
11月27~28日の受講生と佐伯さん