突然ですが、あなたは寒い夜に寝るとき、靴下を履いたままふとんに入りますか?

そんなテーマで2020年、繊維製品メーカーのグンゼが男女457人にアンケート調査を行いました。結果は、男性が「履く・49%」「履かない・51%」、女性が「履く・58%」「履かない・42%」。男性はほぼ半々、女性はほぼ6対4で履いて寝る人が多いということが分かりました。参照:https://www.gunze.jp/kigocochi/article/1k201901-11/

『銭湯検定公式テキスト②』の「冷え性」という項にも

東京都市大学・早坂信哉教授が行った調査(「熱と暮らし通信」2019年)では女性は7割、男性でも4割が冷えを自覚していたとの結果でした。早坂教授が行った「銭湯利用と健康指標との関連」調査(2018年)でも、銭湯利用者の女性132人中、「冷え性ではない」と答えたのは25名、18.9%に過ぎません。つまり8割以上が冷え性を自覚していたのでした


と書かれていますから、寒くて眠れなくなることを恐れて、靴下を履いて寝ようとする女性が多いのはうなずけます。では、いい睡眠を得るために靴下を履いて寝るという選択は正しいのでしょうか?

いろいろな説がありますが、生理学的にみると靴下を履いて寝ることのデメリットはいくつかあるようです。たとえば、靴下を履くことによって毛細血管が締め付けられ血行が悪くなる、足の先に熱がこもるので深部体温が下がらなくなり睡眠の質が下がる、人によっては足が蒸れて不快感を覚える、などです。

そうかといって、風呂上がりから床に就くまでの時間が1時間以上あったり、寒い夜、銭湯の帰り道で足元がすっかり冷えてしまったり、という状況でなかなか寝付けなくなることはよくあることです。以前、このコラムの「⑬いい睡眠が得られる入浴法とは」でご説明したように、スムーズな入眠のメカニズムは深部体温が皮膚の熱放散によって下がることが必要条件ですから、お風呂で温めた足の保温のために靴下を履くことは大切ですが、ずっと履いたままでは良い眠りが得られない、ということになります。

つまり、床に就くまでは靴下を履き、ふとんにもぐったら靴下は脱ぐ、ということなのですが、脱げばなんだか冷えそうな感じがしてついそのまま、ということがあるのでは? ふとんに入って、眠くなる間際に靴下を脱ぐなどという器用な動作はなかなか難しいもの。そのまま眠り込み、夜中に足の違和感で目が覚めるようなことも多いのではないでしょうか。

そう考えれば、湯冷めしないお風呂の入り方を実践するほうが手っ取り早いことになりますね。それが今回のテーマです。

まず、「湯冷め」とはどんな状態をいうのでしょうか。いろいろな実験が行われていますが、浴槽で全身浴した直後は、入浴前に比べて深部体温は0.4℃ほど高くなっています。しかし10分も経過すると、入浴前より約0.1℃深部体温は低下してしまい、以後下がり続けて、30分後には0.3度ほど低下するのが一般的といわれています。この、入浴前より深部体温の低下した状態を「湯冷め」というのです。

なぜこうなるのでしょうか。全身浴をすることによって温まった体温を元通りに下げようと体の防御メカニズムが働き、放熱するために汗をかくわけですが、湯冷めはこの汗が体の表面で冷えることによって起こるのです。つまり、水分処理の失敗で逆に体が冷えるのです。したがって湯冷めを防ぐ入浴法とは、なによりも適切な湯上がり後の行動が大切ということになります。

銭湯入浴で湯冷めしないための、湯上がり後のポイントを上げます。
・脱衣場では速やかに体をふく(ほてっているからといって、濡れた体のまま扇風機に当たったりするのはNGです)
・髪の毛が濡れている状態では首や背中がどんどん冷えていくので、なるべく早くドライヤーで十分に乾かす
・徐々に皮膚の表面温度を下げるために、汗が完全に引くまで脱衣場で過ごす
・汗が完全に引いてから服を着る(一気に厚着をすると再び汗をかき、結果的に体が冷えてしまうので注意)
・銭湯から家に戻る時間に合わせて深部体温が保てるよう、服装に注意する(特に首まわり、胸元を外気に触れないようにする)
・厚手の靴下を履き、帰宅後ふとんに入る前に脱ぐ

このように「湯上がり後」に配慮することが、冬場の銭湯入浴における湯冷め防止のキモですが、実は入浴時の湯温にも気を付けたほうがいい、と専門家は述べています。たとえば冒頭でご紹介した早坂教授によると、42℃のお湯と40℃のお湯の、湯上がり10分後の体表温度をサーモグラフィで比べてみると、42℃のほうが高くなっているにもかかわらず、30分後は40℃で入浴したほうが胸や足の温度の低下が少ない。つまり40℃のお湯に浸かったほうが温かさを維持していることが分かったそうです。

これは、人間の体が常に一定の温度を保とうとする働き(ホメオスタシス)があるからで、急激に温めたときは体温も急上昇するものの、その後急速に体温を下げようとするために、温まった状態が長続きしないのです。ですから、銭湯で何回か湯船に浸かる場合、最後はぬるめのお湯に入り、体温を調節したほうがいいでしょう。

もう一つ、湯冷めしない入浴法のポイントになるのが入浴剤を入れた湯に浸かること。特に銭湯では、温浴効果のある重曹(重炭酸ソーダ)と芒硝(硫酸ナトリウム)を主成分にした入浴剤がよく使われますが、これらの成分は体表のたんぱく質と結合して「保温膜」のようなバリアを作ってくれます。そのため熱の放散がしにくくなり、保温効果が持続するわけです。この点で、銭湯の薬湯は湯冷め防止の絶好のアイテムといえます。

銭湯から家まで帰宅時間がかかる人は、どうしても湯冷めのリスクが高くなります。帰宅して、体が冷えているなと感じたら、すぐに熱いお茶などを飲むようにしてください。とりわけ体がよく温まる蜂蜜入りのショウガ湯は湯冷め防止におすすめです。

繰り返しますが、湯冷めしないためには適度に温め、適度に冷まし、かつ適度に保温するという、一見面倒なテクニックを必要とします。そしてそのテクニックは、個々人の体質や体調とも大いに関連していますから、オンリーワンの方法はありません。冬に強い人も弱い人も、自分に合った「風呂上がりのルーティン」を見つけて、無事にこの冬を乗り越えてください。


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