「今年の5月まで、スポーツクラブでインストラクターをしていました」
白い歯を見せて明るく笑うのは加島優作さん(29歳)。
葛飾区の立石で長く営業を続けている、喜久の湯さんの若きご主人だ。確かにTシャツを着ていても隆々とした筋肉の持ち主なのがよくわかる。
「この銭湯は、僕のおじいちゃんとおばあちゃんが二人でずっとやっていたんです。おじいちゃんの名前が登喜雄で、喜久の湯の名前はきっとそこから来ているんでしょうね。最初はスポーツクラブの会社に就職したんですけど、7年くらい前におじいちゃんから『お前、銭湯をやる気あんのか』って言われて。きっと、僕が子供のころから銭湯の仕事に興味を持っていたのをわかっていたんでしょう(笑)。それからスポーツクラブの仕事とかけもちで、銭湯の仕事を手伝うようになりました」
だが、そのおじいちゃんが今年(2019年)の7月に87歳で亡くなってしまった。悲しみに暮れる間もなく、優作さんはスポーツクラブを辞めて、銭湯の仕事に専念することになった。
「銭湯とスポーツクラブの仕事って、どこか似ているんですよね。まず朝が早いこと。今はだいたい朝の7時半から掃除をしていますが、スポーツクラブはもう少し早かったでしょうか。それから、元気な高齢者が多くいらっしゃることも共通しています」
スポーツクラブ時代も今も大事にしていることは、「丁寧な挨拶」だという。
「挨拶から始まって、お客さんに今日のお体の調子を聞いたりしています。やはり人と人とのつながりは言葉から始まるので、挨拶は大切にしていきたいですね」
さらに銭湯とスポーツクラブに共通していることがある。それはどちらも「健康」に関係していることだ。これに関して、優作さんが特にこだわっているのがジェット風呂である。
「うちのジェット風呂の水圧は、かなり強めに設定しています。これも、おじいちゃんのころからなんですけどね。各地の銭湯巡りをしている人からは、よく『ここのジェットが一番強いね』と言ってもらえます。体のいろんなところにジェットを当ててみてください。例えば、腰痛にはお尻の筋肉(大殿筋)のあたりをほぐすのがよいですよ」
さすがは元インストラクターだけあって、優作さんのアドバイスには説得力がある。
もうひとつ、優作さんのオススメはサウナだ。なんと無料である。
「無料というのはともかく、90℃以上という温度にはこだわっていますね。『しっかりと熱いね』と好評です。おかげさまで、みなさん水風呂に入る前にちゃんとかけ湯をしていただいていますね。本当にうちはマナーのいいお客さんが多いと思います」
現在葛飾区では、日曜日に限り親子同伴の場合、12歳以下の子供は入浴無料というサービスを行っている。
「葛飾区は、若い人や子供に銭湯に来てほしいという気持ちがとても強いと思います。お子さん連れのお客さんはホント多いですね。子供のころから銭湯に来ると、マナーも身につくので、このサービスは今後もずっと続けてほしいです」
今後の銭湯経営について尋ねると、明確なビジョンが返ってきた。
「470円の入浴料金分だけでなく、どれだけお客さんに付加価値を与えることができるのかを考えています。例えば、男性の脱衣場には、ぶらさがり健康器を置いているんです。やろうと思えば懸垂もできるんですが、ぶら下がってくれるだけでも体にいいと思うんですよね。スペースとの相談ですが、もっとしっかり運動できるマシンを置きたいですね」
優作さんの夢、それは銭湯とスポーツクラブの融合であった。
子供からお年寄りまで、絶えず笑顔にあふれている喜久の湯のような健康的な場所があるのは、葛飾区の誇りであることは間違いない。
祖父が築いた立派な銭湯が、お孫さんの努力によってさらに大きく花開こうとしている。
(写真・文:銭湯ライター 目崎敬三)
【DATA】
喜久の湯(葛飾区|京成立石駅)
●銭湯お遍路番号:葛飾区 43番
●住所:葛飾区東立石2−21−16
●TEL:03-3691-3981
●営業時間:15~23時
●定休日:金曜
●交通:京成押上線「京成立石」駅下車、徒歩8分
●ホームページ:https://katsushika1010.com/sento/喜久の湯
●Twitter:https://twitter.com/kmaosghii
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