昨年行われた全国調査「銭湯利用と健康指標との関連」の結果に基づいて、これまで6回にわたって、銭湯入浴の頻度と幸福度との関係についてお知らせしてきました。銭湯入浴の頻度が高い人(毎日~週1回以上銭湯入浴する)ほど「自分はしあわせである」と感じる傾向が強いことが、この調査で科学的に証明されましたが、さらに銭湯入浴の頻度と笑う頻度との関係、および主観的健康感との関係についても見てきました。その結果、よく銭湯を利用する人ほど、しあわせ感の象徴的な要素でもある「笑い」が生活の中で多い傾向にあること、自分は健康であると感じる傾向が高いことなどが分かりました。
実はこの調査で、もう一つ興味深いことが分かりました。「銭湯に頻繁に通う人ほどストレスを非常に強く感じている」ということです。

下の表をご覧ください。「毎日~週1回以上」銭湯を利用する人の23.3%がストレスを「非常に強く感じる」と答えています。銭湯に全く「行かない」人の場合は15.6%、「数カ月に1回以上」通う人の場合は12.6%、「最近行ってない」人では20.3%ですから、傾向として銭湯によく通う人ほどストレスを感じている、ということになります。

《表 銭湯入浴の頻度とストレス》

えっ? 銭湯に行くとストレスがたまるの?

この調査を監修した東京都市大学の早坂信哉教授は次のように見解を述べています。

「どう解釈するかは、なかなか悩ましいところです。この調査の別の質問では、銭湯入浴の頻度が高い人はアクティブな傾向があって、他者との交流が積極的なタイプが多い、ということが分かっていますから、(銭湯という場の問題ではなく、日常生活の様々な場面での)他者との関係性の中で生まれてくるのではないか、と考えることができます」

さらに推測すると、日常生活の中でたくさんのストレスを感じている人ほど、意図するかどうかは別として、それを洗い流すための場として銭湯を選ぶ、ということも言えるのではないでしょうか。銭湯でよりストレスを感じるならば、そういう人は意識的に銭湯から遠ざかるはずですから。

ストレスを洗い流すために銭湯へ行く人が多い、という仮説の正しさを裏付ける数値が、この表の中に隠れていることも分かります。ストレスを「あまり感じない」「全く感じない」という人は、銭湯に全く「行かない」人で44.0%であるのに対し、「毎日~週1回以上」銭湯に行く人は30.0%。ストレスを感じない人は、別段それを洗い流す場を必要とはしない、と考えることもできます。

言うまでもなくストレスとは、外部からの様々な心理的、感情的、環境的、物理的な負荷や刺激によって引き起こされます。ストレスを引き起こす原因を「ストレッサー」と言いますが、必ずしもすべてのストレスを人は意識して感じるわけではありません。気付かないストレスの蓄積で体の変調が起こることもあるのです。ストレッサーには仕事のプレッシャーや人間関係などもありますが、温度、音、光、過労、けがなども含まれます。何よりストレスの受け止め方には個人差があるため、一律にストレスを語ることは難しいのが実情です。

ストレッサーを受けることで、体内では交感神経が支配している副腎皮質からアドレナリンや副腎皮質ホルモンが分泌され、血糖値や血圧を上げたり、免疫力を抑制したりします。いわゆる交感神経優位の状態になるのです。ストレスが続くと副交感神経とのバランスが崩れ、結果的に心身の不調が引き起こされます。こんな場合はいち早く、副交感神経の状態を回復してあげる、平たくいえばリラックスすることが大切。

リラックスする環境として大きな湯船のある銭湯がうってつけであることは、これまでにもたびたび医学的に証明実験が行われてきましたが、つい先日、YouTubeの「ゆっポくんチャンネル」にタイムリーな動画がアップされました。実際の銭湯で、入浴前後に自律神経測定器で交感神経と副交感神経のバランスを測った結果、3人の被験者のいずれもが「ストレスフル」から「リラックス」状態に劇的に変化したという実験動画です。

ゆっポくんチャンネル 【第1弾】銭湯に行くと幸福になれる?!早坂信哉教授が銭湯でリアルタイム自律神経測定!

入浴の効果については「銭湯で元気!」で度々取り上げましたが、温熱効果は血行を改善し、浮力効果は安静や安心感を引き出してくれます。ストレス解消の重要なコンテンツに銭湯が挙げられることは不思議でもなんでもありません。ストレスを感じた時に、ふと大きな湯船の存在が頭の中をよぎるのは、日本人の証明といえるのかもしれません。


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