北千住は、複数の鉄道路線が乗り入れる利便性の高さに加えて、近年は多くの大学が移転してきたこともあり、町全体が活気に満ちている。そんな町で、“キングオブ銭湯” こと大黒湯と並ぶ知名度を誇る「タカラ湯」を訪ねた。

 北千住駅からは徒歩約20分。商店街をしばらく歩いた先の、路地の突き当たりに、二段構えの千鳥破風を持つ立派な宮造り建築のタカラ湯が現れた。昭和13年築という建物の入り口上部には、細かい細工が施された畳一畳分ほどの七福神の彫刻も飾られている。その姿は堂々とした風格に満ち、建物の内部にいやがおうにも期待が高まる。

th_1_3069
th_2_3054

 建物自体も立派だが、タカラ湯の名をさらに高めているのが「キングオブ庭園」や「キングオブ縁側」ともいわれる立派な日本庭園と縁側だ。フロントの突き当たりから男湯の脱衣場をはさんで、一番奥の湯船まで続く日本庭園はよく手入れがなされており、ツツジやアジサイ、紅葉などが植えられ、四季折々のさまざまな風景を楽しむことができる。立派な錦鯉が悠々と泳ぐ池もあり、それらを和の風情漂う縁側から眺められるのだが、その風景は美しいの言葉以外に思い浮かばない。気持ちよい風の吹き抜ける縁側で、庭園を見ながらくつろぐのはまさに至福のとき。東京であることを忘れさせてくれる場所だ。

th_3_2970
th_4_2981

 さて、男湯の浴室は正面上部に中島盛夫絵師によるペンキ絵の富士山が飾られてあり、その下には座ジェット、バイブラ、電気風呂、薬湯(日替わり)、ちょっとぬるめのゲルマニウム温泉と各種浴槽が並ぶ。窓越しに見える日本庭園の青々とした緑が目に優しい。

th_5_2846
th_6_2849

 特に薬湯とゲルマニウム温泉の湯船からは庭園が正面に見え、のぞきこめば鯉も見える。他の銭湯ではお目にかかれない風景であることは間違いない。ピンクと白を基調とした浴室全体も、庭同様にとにかく手入れが行き届き、気持ちよく入浴することができる。

th_7_2858
th_8_2870

 日本庭園のことを書いてきたが、庭園は男湯の脱衣場に面している都合上、女性が見ることができるのは庭園の半分程度なのが残念。とはいえ、女性側は大きな庭がないぶん、カラン一列分だけ浴室が大きく、広々としている。お風呂の構成は同じだが、大浴槽には子どもが喜ぶようにと、お湯が出る親子ペンギンの置物が設置されているのがほほえましい。また、フィンランド直輸入のサウナも設置されているのも男湯と異なる点だ。

th_9_2921
th_10_2924

 早い時間帯の浴室は高齢のお客さんが多いが、顔見知りが多いようでとても賑やか。和気藹々(あいあい)とした雰囲気は、まさに下町銭湯のイメージどおりだ。

 さて、今年4月から放送され注目を集めたドラマ「昼のセント酒」だが、タカラ湯も「第六湯」に登場。下町の人情銭湯として描かれていたが、放映後はテレビを見たというお客さんがたくさん訪れるようになったとのこと。取材当日も銭湯に不慣れな様子の若者が複数訪れていた。電気風呂の存在を知らずに足を入れて「いたたた」と絶叫するお兄さんもいたが、みんな思い思いにお風呂を楽しんでいる様子だった。

 なお、北千住駅からタカラ湯までは少し距離があるので、バスに乗るほうが便利だが、時間に余裕があれば賑やかな商店街をブラブラ歩いていくのをおすすめしたい。駅から宿場町通り(旧日光街道)を北へ向かい、数年前に新装した老舗の「かどやの槍かけだんご」の角で左折して、日光街道を横切りひたすらまっすぐ進む。ニコニコ商店街を抜けるとタカラ湯へ到着だ。

 ところで、足立区の銭湯では、フリーペーパー「銭湯といえば足立」を発刊するなど独自の広報活動に取り組んでいる。今年の夏休み期間(2016年7月16日〜8月31日)は小中高生を対象に、なんと入浴料金100円という「あだちのお湯フェス」を開催中。期間中、学校、公共施設、銭湯などで配布されるチラシを持参すると、100円で入浴できるとのことなので、夏休みはぜひ友達と連れ立って出かけてみては。
(写真・文:編集部)


【DATA】
タカラ湯(足立区|北千住駅)
●銭湯お遍路番号:足立区 7番
●住所:足立区千住元町27-1
●TEL:03-3881-2660
●営業時間:15〜23時半
●定休日:金曜
●交通:「北千住」駅よりバス。「千住桜木町」下車、徒歩5分
(JR常磐線・千代田線・日比谷線・東武伊勢崎線・東武線直通半蔵門線・つくばエクスプレス線)
●ホームページ:http://slowtime.net/takarayu/
銭湯マップはこちら

※記事の内容は掲載時の情報です。最新の情報とは異なる場合がありますので、予め御了承ください。

th_11_3033

女湯に設置されているフィンランド製サウナ

th_12_2915

女湯の脱衣場にも小さいながら手入れされた庭がある

th_13_2918

開放感を感じる高さ7mほどの格天井

th_14_2933

ロビーでおしゃべりしていく常連さんも多い

th_15_2943

穏やかな語り口調が印象的なご主人の松本康一さん

th_16_3060

入り口には開店を知らせる「わ」板が飾られている