今回お邪魔したのは東京の北東部、埼玉との県境の街、清瀬市の喜多の湯さんです。

さて、清瀬と言えば……、とすぐに出てこない筆者に、やさしくレクチャーしてくださったのはご主人の本橋健司さんと、奥様の恵子さんでした。清瀬は西武池袋線沿線のベッドタウンであり、緑豊かなその環境を活かして、戦前から大規模な病院が建設された医療の街でもあります。また、気象衛星ひまわりからのデータは、宇宙空間から、ここ清瀬の気象衛星センターを経由して全国に発信されているのだとか。いつもお世話になっている天気予報の大元なわけですね。知らなかった。失礼しました!

清瀬駅の北口を出て歩くこと4分、清瀬けやきホールの斜め向かいに喜多の湯さんはあります。お店の前に立つと、まずはその見事な唐破風屋根の威容に圧倒されます。おっ、オールドスクール! でも古色蒼然じゃない! 昭和35年の創業当時からの姿を留めつつ、丁寧な改修をされたその姿は、銭湯の伝統を継承しつつも時代の変化に即すという、喜多の湯さんのポリシーが象徴されているようでした。

お店に入るとフロント形式の入り口です。喜多の湯さんでは今から約40年前に、玄関の位置を変えずに番台を寄せてロビー(待合室)を設けていたとのこと。今のフロント式に改修したのは平成に入ってすぐ、2回目の中普請の時とのことなので約30年前です。ロビーやフロントは、今ではごく普通のスタイルですが、導入当時はいずれも相当に進歩的だったはずです。

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フロントの周りにはケロリンのグッズが販売されています。ご主人はご自分の愛車をケロリン号にカスタムされるほどのケロリン・ラバー(ケロリンの商号は内外薬品承諾済とのこと)。ご厚意に甘えて秘蔵のケロリン・オケ・コレクションも見せて頂きました。

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また、建物の中に入って驚いたのが、高い天井と広い天窓のもたらす抜群の採光性でした。唐破風屋根はその佇まいもさることながら、こんな効果もあるんですね! 喜多の湯さんの店内には、脱衣場から浴室にかけて、いろんな角度で光が差してきます。これはビル銭湯はもちろん、普通の銭湯でも中々味わえないものです。筆者がお邪魔したのはお昼少し前でしたが、外光がペンキ絵の富士山に反射して、まるでご来光気分。きっと夕暮れ時にはオレンジ色に染まった富士山も見えるのではないでしょうか……。

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浴室内はとにかく清潔の一言。よく磨きこまれたピカピカのタイルに、外光が反射している様子は、見ているだけでも清々しい気持ちになります。ご主人のお気持ちが伝わる心地よいスペースでした。

湯船には極細気泡のシルク風呂、サウナ、水風呂に加えて、最近あちこちで見かけるようになった炭酸泉風呂もありました。しかし、この炭酸泉風呂もフロント式と同様、導入されたのが平成3年と、東京の銭湯で2番目に早いのだとか。(軟水+炭酸は都内初)

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お話を伺ってよくわかりましたが、今のご主人、そして先代のご主人ともに、非常に進取の気風に満ちた方のようです。銭湯という、いわば非常にオールドスクールな業態にあってのこの先進性。また、その先進性は『全てを今風に』という安易な形ではなく、古き良き、日本の伝統としての銭湯の『形』を活かしつつ、提供するコンテンツのみをリニューアルするという、なかなか出来そうで出来ない形で発揮されているのです。

いや、筆者はお話を伺ってすっかりご主人・本橋さんのファンになってしまいました。これぞプロ銭湯! 「古くてボロいけど、そこも含めてノスタルジックということで……」という、銭湯愛好家と銭湯との間の、無言の暗黙の了解めいたものが、ここには微塵もありません。

環境や設備にばかり話が行ってしまいましたが、肝心のお風呂もそれは素敵なものでした。より良い水を求めて、今や3本目となった井戸は120mまで掘りくみ上げた井戸水を、手間のかかる軟水加工し、さらに薪で沸かしたお湯が日によっては楽しめることもあるとか! ご主人の気持ちのこもったお湯の軟らかさは最高レベルです。

最後に、「今後の銭湯はどうなっていくのか、どうあるべきか」という筆者の無責任な問いに、ご主人・本橋さんは「(スーパー銭湯との差異化で)よりシンプルになっていくと思う。そのシンプルな内容で満足感を与えられるところだけが残るのでは」と仰っていました。さすが、こだわりのお風呂屋さん! 確たる信念と自信を持った銭湯でないと、このお答えは返ってこないのではと思いました。

本橋さん・恵子さんの温かい人柄と、進取の気風。ご夫妻の銭湯愛で温まる、清瀬・喜多の湯。おススメです!

(写真・文:銭湯ライター 品川致審


【DATA】
喜多の湯(清瀬市|清瀬駅)
●銭湯お遍路番号:清瀬市 3番
●住所:清瀬市元町1-7-7
●TEL:042-493-0123
●営業時間:15時半~22時
●定休日:毎金曜・第3木曜日
●交通:西武池袋線「清瀬」駅下車、北口徒歩3分
●ホームページ:http://kitanoyu.o.oo7.jp/

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富士山のペイント絵へのご来光

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脱衣場は木の質感が心地よい

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柔らかな自然光が差し込む脱衣場

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水風呂は井戸水原水を通年約13℃でかけ流し