ピザは注文を受けてから熟成させた生地を伸ばし、トッピングをしてピザ釜で焼き上げる。数分待って運ばれてきたのは、マルゲリータ。軽く焼き色のついた生地の香ばしい匂いが食欲をそそる。薄手の生地にたっぷりのトマトソースとくせのないチーズ。バジルの緑がトマトソースの赤に良く映える。冷めないうちにとかぶりつけば、トマト、チーズ、バジルに加え、たっぷりかかったオリーブオイルの四重奏が口の中に広がる。冷えた生ビールを流し込んだら、もういうことなし……
いきなりピザの描写で申し訳ないのだが、実は今回、銭湯との関係が大アリなので、ご容赦願いたい。冒頭のシーンは、銭湯業界初の本格派の手作りピザを売りにした「蒲田福の湯」を訪ねた際の一コマだ。
「蒲田福の湯」は、JR蒲田駅から徒歩12分ほどのところにある。初代が昭和26年に開業し、以来この地で銭湯を営んできた。2014年、老朽化をきっかけに建て替え工事を行い、2016年4月にリニューアルオープンした。真新しい建物はオシャレ過ぎて銭湯とは気付かずに通りすぎてしまいそうだが、「福の湯」と書かれた入り口脇の大きな提灯が目印だ。「Foo-Qoo」のロゴがしゃれている。
冒頭で紹介したピザを食べることができるロビーは、竹や観葉植物が飾られた和モダンな雰囲気で、飲食するにもぴったりの広々としたスペース。赤い大きなピザ釜が設置されたフロントで入浴料金を支払い、「福」のロゴが入ったなんとなくありがたそうな(!?)暖簾をくぐって脱衣場へ。
真新しい木目調のロッカーが並ぶ明るい脱衣場は、まるで今時の住宅のモデルルームのようにシャレている。店のデザインや色使いなどは全て4代目ご主人の奥様が担当されたそうだ。脱衣場のドリンクサーバーに麦茶が用意されているのも気が効いている。
コンパクトな浴室は、白を基調としたタイルの内装に、大きな窓から陽が差し込み明るい。椅子と桶はカランごとに並べてある方式だ。シャンプーとボディシャンプーも完備しているから、手ぶらでも気軽に立ち寄ることができる。
湯船は2つ。大きいほうの湯船は、底から気泡が沸き出るバイブラで、隅のほうにはジェットが噴出する座風呂を設置。少し小さいもう一つの湯船は岩風呂で、上部に竹壁が組まれ、スピーカーから鳥のさえずりが流れる露天風呂風。お湯を湯船の中からライトアップする演出がおもしろい。
お湯の温度は、小さいほうがぬるめで、大きいほうはほんの少し高めだが、いずれも小さい子どもでも安心して入れる温度に設定されているのがうれしい。
お湯を楽しんだ後はピザをぜひ試してもらいたい。ご主人は子どもの頃、アメリカに住んでいたことがあり、そのときピザが大好きになったとのこと。ピザ好きが高じて、いつかピザ屋を出したいという夢を持っていたのだが、建て替えを期に銭湯を継ぐことになった際に「銭湯でピザを出そう」と思いたったのだとか。
さて、そのピザだが、冒頭で紹介したマルゲリータのほかにも、ご主人のお勧めはアメリカン(写真下)。自家製ピザソース、チーズ、ペパロニ(スパイスの効いたサラミ)に加え、ガーリックバターホイップが絶妙なアクセントとなっている。「今の味に落ち着くまでたくさんバターをムダにしました」とご主人が話すそのオリジナルホイップ、立ちのぼるガーリックの香りが食欲をそそる! 編集部もイチオシだ。
なお、本格派のピザにもかかわらず「うどん、そばみたいに毎日食べられる値段にしたい」というご主人の希望から、マルゲリータSサイズが400円、そのほかのメニューもSサイズ450円(Lサイズは900円~1000円)と、リーズナブルな価格なのがうれしい。紹介した2つのほかにジェノベーゼ、マヨコーン、ミックスも用意されているので、お腹に余裕があればいろいろ試したい。
このピザ、6月の販売開始以来好評を得ていて、「若いお客さんが多いかなと思ったら、常連のご年配の方によくお買い上げいただいています」とのこと。ちなみに風呂に入らなくても購入可能だが、ぜひ風呂上がりのピザを楽しんでほしい。販売は土日祝の夕方17~20時、22時~24時まで、テイクアウトもOKだ。
ピザを焼くご主人は銭湯を継いだことについて、「土日が休めないし、拘束時間も長いから、すごくいい商売だとは思わないけど、満員電車に乗るわけでもないし気楽にやれるのがいいですね」と話す。ピザと銭湯、新しいものに同時に挑戦するのは苦労が多そうだ。
銭湯業界初の本格派手作りピザの販売により、家族連れなど新たな客層の開拓に挑戦するスタイリッシュなリニューアル銭湯「蒲田福の湯」で、湯上がりピザをぜひ楽しんでほしい。
(写真・文:編集部)
【DATA】
蒲田福の湯(大田区|蒲田駅)
●銭湯お遍路番号:大田区 70番
●住所:大田区蒲田1-12-15
●TEL:03-3732-1245
●営業時間:14~24時半
●定休日:木曜
●交通:京浜東北線「蒲田」駅下車、徒歩12分
●ホームページ: http://ota1010.com/explore/kamata-fukuno-yu/1
銭湯マップはこちら
※記事の内容は掲載時の情報です。最新の情報とは異なる場合がありますので、予め御了承ください。