麻布十番駅で降りて地上に出ると、和洋を問わずさまざまな飲食店や商店が軒を連ねる賑やかな麻布十番商店街。周辺には大使館が多いせいか外国人も多く行き交い、華やかさの中に下町情緒も同居して、ある種独特な雰囲気が漂う商店街だ。
そんな商店街から歩いて5分ほどのところにあるのが「麻布黒美水温泉 竹の湯」。大正2年から当地で温浴施設を営む、老舗の銭湯だ。
平日にうかがったところ、開店前の入り口に常連さんたちが列をなしていた。開店時には男女合わせて20名近くに達し、その人気の高さが伺える。
「のんびり過ごしたいなら、平日がおすすめです。カランの数が少ないので、週末はかなり込み合うんです」と話すのは、樋口美和さん。10年ほど前に姉妹店の「ゆ屋和ごころ 吉の湯」(杉並区)をオープンさせ、現在は竹の湯と吉の湯の2店舗を、ご夫婦と従業員で営んでいる。
開店直後、浴室へ常連さんとともに向かう。なお、竹の湯では下足札の鍵を脱衣場のロッカーに差し込まないと使えないタイプを採用しているので要注意。男湯の入り口上には、子どもが喜びそうな熱帯魚のステンドグラスが飾られている(女湯はメルヘンチックな西洋のお城)。
扉を開けると帆船のモザイクタイルが壁面を華やかに彩る(女湯は日本地図)。この時間、浴室にいるのはほとんど近所の常連さんのようで、皆さん気風のいい口調でぽんぽんと挨拶が行き交う。麻布に住んでン十年の、土地っ子だろうか。
小ぢんまりとした浴室には、熱めの湯船とぬるめの湯船が一つずつ、そしてサウナの隣には水風呂が用意されている。お湯はいずれも黒湯の天然温泉だ。元は大きな湯船が一つだったのを、家族連れにも楽しんでほしいと平成23年の改装時に2つに分け、ぬる湯を設けた。水風呂もそのときに設置したものだ。熱めの湯船は43℃、ぬるめが40℃くらいか。
つかってみると、お湯は水面から10cm下の手のひらが見えないほど真っ黒だ。黒湯独特のヌルヌルした感触はいかにも肌によさそう。このヌルヌルが湯上がりはサラサラに変わるから、黒湯は不思議だ。
さて、熱い湯のあとに水風呂(こちらも黒湯)へ向かったのだが、あれ? なんだか感触がお湯の黒湯と違う。表現しにくいが、ヌルヌル感が増してまるで膜のような。透明度も水風呂のほうが低い。何度かお湯と水風呂を行き来したのだが、間違いなく感触が異なる。どうやら水風呂の黒湯のほうが、濃厚な気が……。フロントのお姉さんに尋ねてみると「水風呂は源泉をそのまま入れてあるので濃いんです。お湯のほうは沸かして温度調節のために水を足してしてあるので少し薄く感じるのかもしれません」とのこと。なるほど、源泉そのままの黒湯の感触を楽しみたければ、水風呂につかろう。
さて、竹の湯はその立地のよさから訪れるお客さんも多種多様。平日は会社帰りに利用するランナーグループも多く、中にはお台場方面まで走ってくるランナーもいる。(※ランニング時に荷物の一時預かりを頼む際は、フロントで銭湯ランナーであることを告げてから利用すること)
大使館が周辺に多い立地から外国人のお客さんも多い。「“日本で行くべき場所・温泉編”みたいな訪日外国人向けのサイトで“熱海” “伊東”などの温泉地の後に“竹の湯”が続いていたんです。うちだけ銭湯で(笑)。それからは特に外国のお客さんが増えましたね」。
土日は家族連れが増えるほか、遠方からのお客さんも多くなる。また、最近はネットで情報を得て来店する若い人も。「若い子だと銭湯自体を知らない人が多いですね。温泉旅館や立ち寄り湯などの入浴施設と区別がついていないみたい。“先払いですか?”とか思ってもみない質問を受けたり(笑)」と樋口さんは笑う。
日本国内だけでなく、世界へ銭湯文化を発信する麻布黒美水温泉 竹の湯は、その名の通り大都会の真ん中で手ごろな価格で黒湯温泉が楽しめる貴重な銭湯。周辺には初代アメリカ合衆国公使館が設けられた善福寺をはじめ歴史スポットも多く、湯上がりに立ち寄る飲食店のバリエーションも豊富だ。仕事帰りはもちろんのこと、麻布散策の際にも立ち寄りたい銭湯だ。
(写真・文:編集部)
【DATA】
麻布黒美水温泉 竹の湯(港区|麻布十番駅)
●銭湯お遍路番号:港区 3番
●住所:港区南麻布1-15-12
●TEL:03-3453-1446
●営業時間:15時半〜23時半
●定休日:月曜、金曜
●交通:東京メトロ南北線「麻布十番」駅下車、1番出口より徒歩5分、
都営大江戸線「麻布十番」駅下車、7番出口より徒歩5分
●ホームページ:https://takenoyuazabu.wixsite.com/takeno-yu
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