世田谷線の線路脇に、鶴の湯という60年以上も前に建てられた銭湯がある。
山下駅から発車した電車が、加速をしながら鶴の湯の脇をおとなしく走り過ぎてゆくさまを見つつ、60年以上も前に建てられた銭湯が今も綺麗に保たれている理由が知りたくて、撮影するのも忘れ、ご主人と若旦那の話に夢中になっていた。
13歳で銭湯の世界に入ったご主人が、鶴の湯にたどり着くまでの50年間に6軒の銭湯を渡り歩き、そこで培ってきた経験が今の鶴の湯の土台をなし、いろいろな銭湯を見て歩いてきた若旦那の銭湯に対する思いも相まって、今の鶴の湯が存在する。
お客さんの喜ぶ顔が見たくて、毎日夜中の3時頃まで掃除をする若旦那の話や、昔、材木を運ぶために大八車で木場から板橋まで、1日2往復もした先代ご主人の話などを聞き、シャッターの向こうにそんな事が隠れているのを知ると、鶴の湯の魅力を1枚の写真で伝えることは到底無理な話なのかもしれないと思う。
鶴の湯に行ったら気付かれると思うが、いろいろな張り紙を目にする。その内容に驚かされる1つを例に挙げると、『体重計の上で飛び跳ねないでください』とある。
子供連れのお客さんに向けられた張り紙かもしれないが、この体重計が創業当時の60年前から大切に使われてきたことは年季が入った見た目から想像ができるはず。張り紙が必要な事態が起こるらしいというのが、にわかに信じがたい。
10年ごとに張り紙の内容が変わるとのことだが、その内容は私たち次第のような気がしている。そして、銭湯で培われてきた礼儀作法を受け継いで行きたいと思う。
(写真家 今田耕太郎)
【DATA】
鶴の湯(世田谷区|豪徳寺駅)
●銭湯お遍路番号:世田谷区 7番
●住所:世田谷区豪徳寺1-23-20
●TEL:03-3426-2360
●営業時間:15~24時
●定休日:水曜
●交通:小田急線「豪徳寺」駅下車、徒歩1分
●ホームページ:http://www003.upp.so-net.ne.jp/turunoyu/
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今田耕太郎
1976年 北海道札幌市生まれ。建築写真カメラマン/写真家。
2014年4月よりフリーペーパー「1010」の表紙写真を担当。2015年4月からはHP「東京銭湯」のトップページ写真を手がける。