曇りガラスから差し込む光が柔らかく浴室を照らしている、昼の1時を少し過ぎた頃。開店するまで2時間ほどある、この時間帯の六龍鉱泉は、勢いよく蛇口から出る水の音が響き渡り、若旦那が慌ただしくお湯をかき混ぜている。

 程よく反射する彩り豊かなタイルの数々が、この銭湯の清潔感を物語り、寺社仏閣のような気品を感じさせてくれる。

 建築写真の醍醐味は、光と方角と時間が絡み合って織りなす、一期一会の表情を「切り撮る」ことにあるように思う。私が銭湯を撮影する時は、建築写真の手法をおおいに用いている。

 ただ、銭湯は水と密接な関係にあるため、特異な空間であり、裸足での撮影は当たり前、湯船の中からの撮影となると裸になることもある。

 首に手ぬぐいだけを巻いてカメラを担いでいる姿は、写真を見るより面白いかもしれない。より銭湯の魅力を伝えようと思うと、そうなるのも自然の流れであり、我ながら滑稽であり、誇らしくもある。

 今回撮影した六龍鉱泉は、創業1931年の黒湯で有名な老舗銭湯。最寄駅は根津駅になるが、上野駅からも徒歩圏内にあり、上野公園の桜を眺めながら訪れる六龍鉱泉には日本らしい春があふれている。この季節ならではの銭湯をお楽しみいただきたい。

(写真家 今田耕太郎)


【DATA】
六龍鉱泉(台東区|根津駅)
●銭湯お遍路番号:台東区 4番
●住所:台東区池之端3-4-20
●TEL:03-3821-3826
●営業時間:15時半〜23時
●定休日:月曜
●交通:東京メトロ千代田線「根津」駅下車、徒歩5分
●ホームページ:–

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imada

今田耕太郎

1976年 北海道札幌市生まれ。建築写真カメラマン/写真家。

2014年4月よりフリーペーパー「1010」の表紙写真を担当。2015年4月からはHP「東京銭湯」のトップページ写真を手がける。

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